6日目 十五

 三人で集まるいつもの駅前に、高代は当たり前のようにやってきた。どういうわけだか、高代の方が青木たちを見て目を見開いていた。

「エライよあんたら、昨日もやって今日も休まずで。大したもんだと思う」

 何事かと、木井は軽く首を傾げている。青木が高代にその真意を問う。

「なんだよ急に」

「思ったから言っただけだよ。何一つやり続けたことがない俺から見たらさ、あんたらも世の中の奴らもよくやってるよ。みんな天才じゃないかって思う。ハローワーク行って余計思ったよ。俺が寝てた間も何とかしなくちゃって必死だった奴がたくさんいたんだな」

「本当にちゃんと行ったんだ。すごいじゃないか」

 木井が目を輝かせて言う。ああ、行ったよ、と返す高代は心なしか誇らしげに見えた。

 青木は高代が以前、芸人を続けただけですごいことだと話していた姿を思い出した。大学時代、一人ステージに上がっていた高代の姿を思い出す。冷ややかな視線が混ざる中、一人きりで舞台に上がるのは並大抵の決意ではできなかったはずだ。今に至るまで親の反対を押し切るでも、諦めて職を探すでもなく過ごしていたのは怠惰なのか、あるいは親への復讐心でもあるのか。何にせよ、高代の中で何か変化があったのは確かなのだろう。そうだとしたら、このクソみたいな契約の仕事も悪いことばかりではない気がした。


 一昨日より清掃が進んだゴミハウスを見て、高代は無邪気な歓声を上げた。

「すげーじゃん。俺、必要なくない?」

「必要なくなくないかもな」

「え、それってどっち?」

「いいから働いてくれよ。俺ら二人は疲れきってるんだよ」

 はいはーい、と応じる高代を先頭に向かう。まずは和室を片づけきり、廊下奥へと進んでいきたいところだ。川端のスマホのことや、高代の職探しのことも気になったが後回しにした。体力と気力がある午前の時間帯が一番捗ると、これまでの経験で身に染みていた。

 三人になったことで、昨日青木が担当していた窓の前のスペースは高代が片づけることになった。青木は奥に進み、未知の領域である押し入れへと手をかける。木井は溜まったゴミ袋の運搬や後回しにしてある特殊なゴミの回収を担った。

 青木が手をかけた押し入れは中に物が詰まっているらしく、今までのどの戸もそうだったように数センチしか開かない。隙間から菓子折りの箱のようなものが見えたが、物置としての秩序が無くなっており縦横も無視してとにかく押し込まれていた。

 立ちすくむ青木を横目に、高代がウレタンマットを持ち上げている。窓際に重ねられたものを昨日見つけ、そのまま置いてあったものだ。高代が持ち上げたマットは計四枚が重なっており、ためこみ症、という木井の言葉が頭をよぎった。寝床に使ったマットさえ捨てられないというのは、確かに病的なものを感じる。もっとも、あらゆるゴミが放置してあるこの家では今さらな感想ではあるが。

 青木は圧縮されたテトリスのような押し入れを前に、ひとまず目の前に見える縦向きの箱に手をかけた。開いた隙間からでは、この箱を引き抜くぐらいしか選択肢が無い。角がふすまに引っかかるので、力任せに周囲の物を押し返して隙間を広げ引き抜いた。

 歪んで隅に皺が入った紙箱は、引き抜いてみるとずっしりとした重さがあった。中身は恐らく本か書類だと重みで分かる。箱のフタに指をかける瞬間、青木は微かに期待している自分に気づいた。ファンレターですら床に撒かれていた家で、箱に収められている書類だ。川端にとって特別な意味をもつものなのではないか。

 膨らんだ期待は一瞬で消えてなくなった。

 出てきたのは雑誌だ。どれもこれも、コンビニの棚で目にするような大衆誌が収まっているだけだった。二十冊近くのそれが無意味な紙束にすぎないと理解するのを拒み、青木は打ち出の小づちのように一冊ずつ逆さにして振っていった。何か本の間に隠している物でもあるのではないか。そんな望みも、瞬く間に最後の一冊をひっくり返し終えて消えた。

「あー、あかりんだ。いいとこ突いてるね」

 いつの間にか横に立っていた高代が、雑誌だらけになった床を眺めて言う。

「おい、お前は触るなよ」

 青木は反射的に咎めた。本に吸い寄せられ、掃除の手を止める高代が思い浮かんでいた。

「まあまあ。辛い作業には癒しも必要だよ」

 素早く三冊ほど集めて拾った高代が、その表紙を青木に見せつけるよう差し出してくる。目の前で並んだどの本の表紙にも、必ず出てくる名前があることに気づいた。

「これもあかりん、それもあかりん。川端さんの癒しはあかりんだったんだねー」

 月明りあかり。一、二年前からテレビでよく見るようになった女だ。あまりテレビを見ない青木にとってはいつの間にやらだが、何かとハキハキと答えルックスも悪くないタレント、という印象はある。俳優と結婚したというニュースが話題になっていたりもした。本業が何をしている人物なのか知らなかったが、答えは一冊の本の表紙にあった。

『かわいすぎるお笑い芸人 月明りあかり独占コラボグラビア六ページ』

 女芸人という名目とは不釣り合いな、グラビアという特集。その雑誌はゲームの専門誌だった。ページをめくるとゲームキャラクターのマスコットと一緒にポーズを撮る月明りあかりの写真。青木は他の雑誌も確かめていった。写真週刊誌、テレビ専門誌、お笑い専門誌、青年漫画雑誌……どれもこれも、何かしら月明りあかりの記事が掲載されている。

 青木は肩を落とした。川端が月明りあかりのファンだということ以外、何も得られなかった。さらに、意図して保管してあるだけに捨てるわけにもいかない。ゴミとして片づけられないということだ。ゴミ袋が一つずつ埋まっていくのが快感になりつつある今、かさばる保管物はそれなりにストレス源だった。やむなく脇によけ、後で運び出すことにした。

 月明りあかり専用箱を引き抜いた途端、ふすまは容易に開くようになった。押し入れの全貌が明らかになり、寝具が大半を占めていれば楽だという青木の願いは完全に裏切られた。寝具は見る限り一つもなく、代わりに人が入れるサイズの段ボールが押し入れ上下の段にそれぞれ鎮座している。さらに悪いことに、その段ボールの上や左右にも大小の箱が押し込んである。取り出すときのことは一切考えず、とにかくスペースを惜しんで物を放り込んでいったのだろう。この後の苦戦が目に浮かぶようで、俯いた視線の先に厚紙があるのを見つけた。月明りあかりの箱と平行するように、立てかけて入れてあったらしい。

 二枚出てきたそれは、いずれも似た形の寄せ書きだった。放射線状に一人ずつコメントが書いてあり、真ん中に『頑張れマサくん』『川端さんお疲れさまでした』と、それぞれ装飾の仕方や色の付け方は違うものの川端を労っている言葉が主張してある。コメントを流し読みしていくと、両方とも川端がバイトをしていた所の同僚から贈られたものだと分かった。同僚を送別する色紙、という意味では同じだが二枚は何かが違う印象を受ける。その理由は、ひと通り書かれた内容を読んで分かった。恐らく、受け取ったときの川端の年齢が大きく違うのだ。マサ、と書かれている方は先輩からの激励らしい言葉が目立つ。

『マサ、たくさんの人を笑わせて夢を叶えろ! 世界一お前が面白い!』

『お笑い芸人になるってかっこよすぎ。カワバタっちがテレビに出てたらウケるけど(笑) 有名になってもミワのことは忘れちゃダメだよ♡』

『いつも真面目な川端くんがお笑い芸人になるつもり、という話を聞いたときは驚きました。でも、努力家の川端くんなら夢を現実にできると思います。頑張って』

 どれも前向きで、川端雅之という人物を可愛がりその夢を応援する内容だった。色もこまめに変えてあり、ラメシールなどで手の込んだ飾り付けがしてある。

 もう一枚は対照的に、三色ボールペンで書いたような色合いとどこか川端雅之との距離感を思わせる堅苦しい文章が並んでいた。

『お疲れさまでした。川端さんとはあまりお話する機会がありませんでしたが、芸人さんということですごい方だなと思っていました。これからも頑張って下さい』

『川端くん、いつの間にか一番の古株になっていましたね。川端くんが仕込みをする姿をもう見られないと思うと不思議な気がします。これからも頑張って』

『今度テレビでうちの店を紹介して下さい! お疲れ様でした!』

 一枚目は川端が学生時代のもので、二枚目はお笑い芸人になった後のものだろう。年齢が違うとはいえ、同じ人物でこうも送別の仕方が変わるのは不思議な気もした。

 だが、店長時代に送別の色紙を何枚も書いた経験上、覚えのある差でもある。一つは色紙を企画した人物の、張り切り具合による差。もう一つは、送別される人物による差。多くの人と関り、勤め上げ、慕われた者の送別は自然と豪華になりやすい。

 二枚の色紙を見比べる。学生のとき、夢へ向かって熱烈な応援を受けた川端は希望に満ち溢れていたのだろうか。芸人になってから、静かに送別された川端は何を思いながらその店を辞めたのだろうか。尋ねたくとも、その真相を知る人物へは未だ辿り着けない。

 青木は想像した。もし今、川端がひょっこり玄関を開けて帰ってきたら自分は何を話すだろうか。とんでもない案件を残しやがって、という文句はきっと後になるだろう。まずは迎えたい。帰ってきたことを労い、そして尋ねたい。今何をしているのか。歌村拓という相方を失い、どうやって生きていこうと思っているのか。積み上げた何もかもが無になり、想像を絶するような苦しみを味あわされただろうその理不尽な人生に、希望は見出せたのか。川端雅之と会って話を聞きたい。


 昼休憩は十二時からの六十分、というルールがいつの間にか三人の共通認識になっていた。時間を決めて作業しないと効率が悪くなる、と木井が初日から先導し、今では当然のように定着している。この日も木井が車を出し、近所の定職屋で昼食をとっていた。

 三人とも日替わり定食のとんかつを食べながら、木井が高代にハローワークでの感触を尋ねたところ、高代は大量の印刷した求人票を机に並べ始めた。最初は一枚ずつ目を通していた木井も、二十枚を超えようかという量を前に熟読を諦めたらしく、

「焦らず、自分に合う仕事を考えたらいいよ」

 と声をかけていた。なんとかしたいという高代の思いが大量の求人票から伝わってくる気がして、木井が吐く息からも安堵の色が滲み出ていた。面接用のスーツが無い、そもそも面接をしたことないから不安すぎる、何をどうしたらいいか分からない、と高代は半分笑い話にしながらも、半分は真剣な様子で二人に縋り付いてきた。

「バイトの面接はする側だったから、初歩的な質問ぐらいは教えてやるよ」

「スーツは親に相談してみたら?」

「ありがとう。あんたら、やっぱいい奴らだ」

 と腕組みして冗談めかしく唸った高代は、よっしゃ、と膝を叩いた。

「今回の掃除で六万円ゲットして、それでスーツ買えば完全攻略間違いなし」

 と、結論を出して満足げに笑った。

「それに、レンタル彼女も呼びたいし」

 唐突に表れたその名に、高代の浮かれ顔へと視線が集まる。頭の中で、昨日電話をした宮城麻子の声が再生される。川端のことをマサくんと呼ぶ、二度も関わることになった女。

「なんで急にレンタル彼女が出てくるんだ?」

 昨日のことを、木井が高代に話した様子も無さそうだった。宮城麻子の件を知らない上で、脈絡なくその職業が登場したのが不思議だった。

「なんでって、最近デートとかしてないからさー。考えようによっちゃ、本物の彼女よりコスパいいと思うし。彼女ってほら、金かかるじゃん」

「なんだ、そんな理由か」

「なんだ、ってなんだよーアオちゃん。無職が彼女を見つけるのは大変なんだよ。レンタルは俺たち無職に残された数少ない癒しのチャンスなんだから、分かってちょうだい」

 ファミレスでの激務の間に、青木は彼女だとか恋愛沙汰の話から随分縁遠くなっていた。以前よりは自由な時間をもてるようになった今、デートという響きは少しだけ甘くくすぐるような感覚を思い出させる。だが、レンタル彼女と過ごす時間はあくまで嘘で塗り固められた、いわばごっこ遊びだ。遊びから現実に戻るときの空虚さが容易に想像できて、高額な依頼料を注ぎ込みたがる川端にも高代にも共感できなかった。

 青木が呆れ、セルフサービスの水をおかわりしようと腰を上げたところへ高代が泣きつくように言ってきた。

「待ってよアオちゃん、ひどいんだよ。せっかくレンタル彼女を呼ぼうとしたのにさ、断られたんだよ」

「呼ぼうとしてんじゃねえよ」

「断られたって、もう電話したってこと? 昨日?」

 高代を見た木井の声は、若干裏返っていた。さすがの木井も、ハローワークに行った日に浪費しようとするスピード感には驚かされたらしい。

「そうだよ。でもダメなんだって。俺さー、彼女と家デートしたかったから、昨日は俺しか家にいなかったし電話したんだけどさ。ああいうのって、家はダメなんだって。安全上の理由がどうのって言われて。街で会うならいいですよって言われたんだけど、一気に萎えたから断っちゃった」

「ああ確かに、その日だけ彼女の中にもそんな話があったよ」

 その日だけ彼女、が何だったか一瞬分からなかったが、木井を見ていて思い出した。宮城麻子がゴミハウスに来たときに木井が語っていた漫画のタイトルだ。と同時に、何かが矛盾している気がする。青木は頭の奥で広がっていくむずむずとした感触の理由を掴み取ろうと、考えを口にした。

「その、家で会うのがダメっていうルールは絶対なのか? 違う会社に頼めば方法があるとか、女によっては可能とかそういう抜け道は無いのか?」

「おおー、アオちゃんがやっと本気になってくれた。そうなんだよ、俺もちょっと粘って三件ぐらい電話したんだけどさー。全部同じ理由で断られたよ。ガッカリだよな」

「青木くんも興味が出てきた? 漫画貸そうか?」

 高代が漫画を借りたいと名乗り出て、木井が了解する。ありふれたやり取りが、どこか遠い世界の声に聞こえる。全く別のことを考え、何度か咀嚼した上で青木は確信をもった。

「おかしいんだよ。宮城麻子はなんで川端の家に来れたんだ。レンタル彼女は家で会えないんだろ? じゃあ川端の家も知らないはずだ」

 真剣な青木の様子に気づき、ようやく高代と木井は盛り上がりかけていた漫画の話からこちらに注意を向けた。

「二人が、本物の恋人同士だったってこと?」

 結論を急くように高代が早口になって言った。

「そこまでは分からないが」

 急に熱を向けられたためか、かえって青木は冷静になっていた。一つ息を吸い答えた。

「宮城麻子にもう一度話しを聞いてみる価値はあると思う」


 昼休みを終え、青木たちはゴミハウスに戻って来た。宮城麻子に電話をするなら律儀に帰って来る必要はないのだが、体が勝手にゴミハウスの敷居を跨いでから行動を起こそうとする。それはもう、願掛けに近い感情だった。川端が生きた痕跡だらけのこのゴミハウスにいてこそ、自分たちは現在の川端とつながる糸口を手繰り寄せらる気がしてならない。

 青木は宮城麻子の電話番号を自分のスマホに登録していた。川端と連絡がとれたら教えて下さい、という社交辞令かもしれない台詞を受けてのことだが、こんなに早くかけることになるとは思ってもみなかった。木井と高代にも聞こえるよう、スピーカーフォンにしたスマホからコール音が鳴る。緊張する間もなく、宮城麻子は軽やかに第一声を発した。

「もしもーし。驚きましたよ、もうマサくんと会えたんですか?」

 『彼氏』と間違えているんじゃないかと思うような、演技がかった猫なで声だった。営業トークのノリが混ざるのか、どうにもこの女の印象が安定せず戸惑う。

「まだ見つかってない。それよりあんたに聞きたいことがある」

「もー、私が知ってることは全部話しましたよー? 残念でしたっ」

「あんた、川端さんの家にどうやって来た? レンタル彼女は客の家に行けないんだろ」

 一瞬の沈黙が、核心を突いたことを物語っていた。

「客じゃなくて彼氏さん、だよ」

 それでも明るさを保ったまま切り返せるのは、普段しつこい男の口説きをいなして培った術が活きているのかもしれない。

「じゃあ聞き直す。彼氏さん、の家に行ったらいけないのは確かだな? 川端の家はどうやって知ったんだ?」

「それはー、ですねえ」

 かわい子ぶるように間延びした声を出した。首を傾げる姿まで浮かんできそうな見事な声色だったが、目的はうまい答えが浮かぶまでの時間稼ぎだろう。

「あれえ、おかしいなあ。なんでマサくんの家を知ってたんだろう。偶然家の前で出会ったんだったかな」

「正直に答えないならあんたの会社にバラすぞ。彼氏さん、の家に出入りしている女がいるって」

 言いながら、青木はシャンパーニュにレビューを荒らすと脅されたときのことを思い出していた。立場が逆だと、こうも快適だとは。シャンパーニュという悪の手本がいたお陰で、脅すという手段に躊躇いをもつことはなかった。

 受話器の向こうが沈黙する。一旦顔を上げると、木井と高代はとにかく自分たちの気配を悟られないよう息をひそめていた。あまり沈黙が続くので、このまま電話を切られるのではないか、もう一言呼びかけるか、緊張感が漂い始めた頃にようやく返事があった。

「やだなあーもう、会社は反則ですよっ」

 と、明るく振舞ったと思えば今度は

「少し、相談しましょうか」

 と声を落とした。どう立ち回るべきか、考えがまとまっていないらしい。

「相談だな。それがいいだろう。とりあえず川端の家に来てもら」

「電話じゃダメですか?」

 青木が言い終わらないうちに言葉を重ねてきた。その態度が却って青木の意思を固くさせた。何か、宮城麻子にとって不都合な秘密を隠しているのかもしれない。この機会を絶対に逃してはいけない、そう自分に言い聞かせる。

「直接会って話したい。こっちも川端さんの情報が欲しいだけで、あんたに迷惑をかける気はないんだ。話が終わればもう関わらない」

 間が空く。宮城麻子の警戒の量がそのまま表れているような空白のあと、返答があった。

「二時間ぐらいかかりそうですけど、大丈夫です?」

 了解し、電話を切った。木井と高代が緊張を解き、息を吐き出す。青木は二人に声をかけるより先に、電話を切った手でそのまま別の人物の名前をタップした。相変わらずシャンパーニュはすぐ電話に出た。二時間後に、川端と関係のありそうな女がゴミハウスへ来ると知らせた。どうして知らせてくれなかったのかと、再度文句を言われるのも面倒だ。

「悔しい限りですが、行けそうにありません。悔しい限りですが」

 よほど悔しいのか、そう繰り返した。青木としてはゴミハウスの変貌ぶりに驚くシャンパーニュというのも見てみたかったが、清掃完了の日までとっておくことができたと考えるべきか。

 あと二時間。宮城麻子と川端の関係性が明らかになれば、ようやく川端の居場所への手がかりも掴めるかもしれない。にわかに湧いた期待が、青木たちの体を突き動かした。電話から二時間三十分後、和室のゴミがほぼ片付き、ペース配分を誤って動き過ぎた青木たちが膝に手を付いた頃、玄関チャイムが鳴った。

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