第16話 とあるお客さんの話

とある放送局での話だ。前を通りがかったときに乗せた方は、その時話題にのぼり始めたスポーツ関係者でどうやらニュースのスポーツコーナーにゲスト出演しに来たようだった。非常に物腰の柔らかく丁寧だったので、どの業界でもトップクラスになると物腰がちがうものだと感心した。


少し時間が空いて、また同じ人を別の放送局の前で乗せたときは本人ではなく別の人、スタッフだろうかが手を上げてきた。そしてそのスタッフらしき人と軽く挨拶を交わした後に、私が以前乗せたことがあるのに気づいていないようだったが、だいぶタクシーを使い慣れたのだろうか以前より気安い感じで「じゃ、○○までよろしく」といってきた。


それからさらに時間がたったころ、無線で呼ばれたときに会ったのは以前のような雰囲気はなく大勢の人に見送られながら鷹揚に車に乗ってくる大企業の重役のような扱いになっていた。車内での振る舞いも少し偉ぶったかんじがあって、なんだかちょっと残念に感じた。


そのあとしばらくして、成績が落ちたようで徐々に話題に上らなくなりテレビでも見かけなくなった。なんだか栄枯盛衰をいっぺんに見せられたようで印象深いお客さんだった。

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