第4話 建物は正式名称を

タクシーに限らずドライバーにとって主な仕事エリアの地理知識は大事だ。まず多くのドライバーは、よく通る主要国道をはじめとした大通りと高速道路から覚え始めるだろう。次に道と道のつながり方、交差しているところの地名を覚えていくだろう。

それからは職種にもよるだろうが、大きな建物、空港、主要な駅を覚えていくことになると思う。そうして断片的に覚えたものを記憶の中でつなげて、自分用の地図が出来上がっていく。

これらは使っていくごとに更新されていく。例えば大規模な建築物だったり新しい道だったりするが、時には地名が変わることがある。これはみんなになじむまでしばらくかかることが多い。昔の何とか町とか何とか郡は、名前を残して行政区画を変えることも多い。


タクシーにおいて影響が大きい変更のひとつは、地域の名前がまるっきり変わるか数十年前の過去に変わった場合である。どういうことかというと、行き先を告げられるときにそこに昔から住んでいる住人である場合、旧町名でいわれるがドライバーは現町名しか知らなかったのでわからないというケースが発生するのだ。まあこの場合もドライバーが経験をつめばこなれていくのだが。


ドライバーが注意しなければならない場合もある。お客さんに地名で行き先をいわれた際、確認でそこにあるランドマークのような建物をあげて聞き間違いを防ぐことがあるのだが、建物は正式名称でいって何かに例えるようなことをしないようにしている。もしお客さんがその建物の関係者で、例えたものが気分を害するようなものであった場合は間違いなく気まずい。なので本所吾妻橋にある某社とか元麻布にある某住居棟は絶対に正式名称で呼ぶことにしている。

しかし、どこか途中の段階で建設やデザインを左右する関係者たちは誰もアレに似てるとか思わなかったのだろうか。気づいたらちょっと形を変えるとか連想されるのを避けそうなものだが。近所に住む子供たちが使っている通称には絶対になるだろうに。

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