第3話 まっすぐ先は行き止まりです

新人研修や同乗指導のときに酔っているお客さんの応対で注意すべき点を教わる。その代表格が「酔っているときに道の指示を仰ぐと大抵まっすぐというから気をつけろ」というものだ。実際に高速道路のインターチェンジを出たところで左右に分かれるT字路だったのに「まっすぐー」といわれたのには困惑する前に感慨深かった。


途中で寝てしまって起きないというのはありがちな事例で、最近は割とすぐ起きてくれるが、以前にどうしても起きてもらえなくてお巡りさんの手を借りたことがある。

トラブル防止の観点から、お客さんの体に触れてしまうのは避けるのが原則だからだ。


それから、しっかりとした口調でも油断は禁物だ。割とテキパキと右左折をしてくれたお客さんが突然「ごめん、思ってたより酔ってるみたい。ここどこかわからなくなっちゃった。」といわれたことがある。当時はカーナビは標準装備でなく、途方に暮れたものだ。


今は住所を聞き出してカーナビに入力するのが勝負なので簡単になったが、大体の地名を言って寝てしまったお客さんがいて途中で行き先がわからなくなったことがあった。半覚醒状態でも何をいっているか意味不明なので、仕方なく近くの交番に行きお巡りさんの助けを借りた。お巡りさんはどうしたかというと、半分夢うつつのお客さんに「免許か身分証明書を見せてください」といっていた。お客さんがフラフラしながら免許証を出すと、「運転手さん行き先がわからなくて困ってるから、この住所教えていい?」と聞くと、フニャフニャしながらうなづいたのでようやく行き先が分かったということがあった。ついでに、そのお客さんは降車していくときは意外としっかりした足取りだった。

その状態でずっと乗っていてほしかったと心で叫んだ昔の思い出だ。

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