第四十二話 そして牧場は救われユニコは喋らなくなった
王様が賭けで勝った儲けで、牧場の借金を全部返してくれた。
残りの金をやろうかと言われたが、本来は何年もかけて返すつもりだった借金だったので申し訳無いので辞退した。
テュールが代わりにくれとしつこく言っていたが、王様は断っていた。
ゴーバン伯爵は破産した。
今回も多大な金を黒騎士に賭けていたのに負けたので完全に伯爵家にお金が無くなり、王様と勇者の何億もの賭けのお金が返せないので、領地も城も競技場も王府に没収された。
領地は王府の直轄領となり領民は喜んだ。
直轄領の方が税金が安いのだ。
競技場の丘はアルヴィン侯に払い下げられ、彼が
牧場の悪い噂も払拭されて馬主たちが戻って来た。
それどころか、沢山のトーナメントの騎士達が私の牧場に馬を預けてくれたので牧場の経営は上向きになった。
私とヘラルドは嬉しい悲鳴を上げながら、忙しく働いている。
ゾーイも元気になって、私の牧場へ遊びに来た。
ウォーレンや、デイモン、ピーコックたちと一緒だった。
「さあ、アガタ、決勝戦の続きよ!」
と、私に勝負を挑んで来たので、牧場の端に作った練習用のトーナメント場で対決する事になった。
私が跨がるのは普通の馬だ。
ユニコは聖女に解呪されて毛並みが真っ白に戻って元気になったが、喋らなくなった。
ユニコーンの掟を思いだして黙っているのか、元々喋らなかったのを私が喋っているように錯覚していたのかは知らないが、彼は喋ってくれなくなった。
あの頃は私も追い詰められていたから、幻聴を聞いていたのかもしれないわね。
そして、もう二度と私はユニコに跨がる事は出来なくなった。
悲しいけれど、受け入れないとね。
人妻のくせにユニコーンに乗れていたのが奇跡だったのだと思う事にしている。
ゾーイとの練習試合だけれども、私がゾーイをコロコロと落馬させた。
「あ、あれーっ? あれーっ? どうして? こ、これはきっとガルデラに乗り移られたせいで腕が落ちたのよっ!」
「ちがうわ、あなたはあの時調子に乗ってたのよ」
「ああ、そうですね、アガタ先生」
「だなあ、俺にも覚えがある、レベル上がった時はすげえ調子が良くて何でもできる感じになるんだよな」
「俺も覚えがあるなあ」
ゾーイは絶望の表情を浮かべた。
「ど、ど、どうすれば良いの」
「練習」
「練習だぞ」
「練習だな」
「腕を上げて、調子に乗ってた頃の技が自然に出せるようになるんだなあ」
「そんな殺生な」
「ゾーイは才能がある分、好調と不調の波が激しいのよ。だから大物に勝ちやすいけれど、小物に負ける時もあるわ」
「黒騎士は才能が乏しい分、努力と根性で上げた技術を地力にしてたから、勝ち負けが安定してたんだ。ウォーレンがそのタイプだな」
「デイモンは才能のあるタイプだなあ」
「ピーコックは技士で初見殺しね」
「いやあ、対応法見つけられてねえ。なかなか勝てない時期が出るんだあね」
「そ、そんなあ」
「練習だ練習、がんばれよっ」
「一緒にトレーニングしようぜ、妹弟子」
「ちっくしょー」
トーナメント騎士たちが私の牧場に遊びに来てトレーニングして行く事も増えたわね。
トーナメントの前は泊まり込んだりするので、宿舎も作った。
「もう
「みんなの馬の世話をするほうが楽しいわよ」
「勿体ないわねえ」
ガッチンの店もトーナメント用の槍や甲冑で売り上げを伸ばしているらしい。
私の
セギトも丘の上の小さな家で静かな生活に戻った。
テュールは糸目役人のジョーイを連れて王都へ向かって旅立った。
彼の就職を手伝うそうだ。
彼女はしばらくは王国内にいるから、時々牧場に戻ってくるよ、と言っていた。
テュールに懐いていたコンチャとアマラが別れの時に泣いて大変だった。
聖女は神殿に新しい神官が来るまでいたが、その後、聖堂都市に戻った。
勇者も自分の国へと帰っていった。
昔の仲間は皆、旅立って行った。
それでも懐かしいみんなの顔が見れて良かったなあと思う。
ヘラルドは健康を取り戻してばりばりと働いている。
王様とか勇者とかに紹介されてびっくりしていたが、気の良い人なので皆とも仲良くなっていた。
コンチャはもうすぐユニコを連れて、ヴァルキリーの学校に入学する。
生徒が六人の小さな学校だけど、きっと良い出会いがあるだろう。
彼女が戦場に出ることがありませんように。
平時のヴァルキリーは王様のパレードの先頭で行進したり、何かの行事の時に賑やかしで参加するような、暇で平和な仕事だ。
アマラはウォーレンが気に入ってしまい、彼の後をとことこと付いている事が多い。
私の世界は平和になった。
ユニコの真っ白な毛並みにブラッシングしながらしみじみと思う。
「コンチャをお願いね、ユニコ」
彼は答えず、臭そうに鼻にシワをよせたので、むかついて脇腹にドカンと膝蹴りを入れた。
そして毒づかない彼を見て、私は泣きそうになった。
本当に……、悲しいわね。
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