第三十六話 王様はユニコーンライダーの宿命を語る

「ば、馬鹿なっ! 魔王にとどめを刺したのは勇者王と聞いてますぞ」

「それは嘘じゃ」

「嘘なんだな」

「ま、魔王を倒したとなれば魔王戦争一の功労者ではないですかっ! そ、そんな英雄が貴族にならずになぜ牧場の奥さんをっ!」


 王様は黙り込んだ。

 勇者も黙った。


「ゴーバンよ、お前はユニコーンライダーという物を知っておるのか?」

「は、はい、処女しか乗れぬ騎馬兵で、最強の実力を持つ者と……」

「処女では無い、子供だ、ユニコーンには汚れない子供が乗ると恐るべき力を発するのじゃ」

「子供……」

「十三歳ぐらいになると引退するのですよ、伯爵」

「そ、そんな非道な……」

「あのアガタは幼い頃からユニコーンに乗って戦っておった。戦場で皆に勉学を学び、戦場で大きくなった。戦場しか知らなかったのじゃ」


 みんな不憫がって、私たちを可愛がってくれたわね。


「戦争が終わって、アガタが何を望んだと思う。平和で平凡な暮らしじゃよ。わしらはそれを叶えてやりたいと思った。セギトに親戚の牧場主を紹介してもらって、アガタを嫁にやったのじゃ。みな平和で幸せなアガタを願っておった。子供も出来て幸せに暮らしておると思っておった……」


 ゴーバン伯爵は真っ青になった。


「テュールの知らせで、アガタの亭主は闇討ちに遭い、牧場は悪評を立てられて破産寸前、アガタはユニコーンに乗ってトーナメント馬上槍仕合をしておると聞いて驚いた。そんな事になった原因の男は軍隊ですり潰してやろうとも思った」

「聖女もこの領全体を破門するとか言ってましたよ」


 王様は肩をすくめた。


「だが、アガタはトーナメント馬上槍仕合を楽しんでおるようだ。では、わしらも彼女の望みを叶えてやろうと思うてな」

「アガタに黒騎士を倒させて、ゴーバン伯爵、あなたを破産させます」

「そ、そんな、そんな、し、知らなかったのです。そんな重要な人物とは……」

「それは残念だったのう。もう覚悟を決めろゴーバンよ。さ、昼飯にしよう」

「そうですね、さあ、伯爵、案内してください」


 ゴーバン伯爵は紙のように白い顔をしてよろよろと二人を案内して会場から出ていった。


 ユニコはしんどかったのか、どすんと地面に寝転んだ。


「平気?」

『ちょっと休ませてくれ。あと一戦ぐらいは出来るぜ』

「無理しないで、ここまで来れば伯爵は破滅だし、聖女が来るまで休んでも良いわよ」

『黒騎士を倒さないとすっきりしねえだろ』

「ありがとう、あなたは最高の友人だわ」

『まあな』


「くっそー、馬鹿王様めっ、賭け屋でわたしらが賭けてから色々ばらせよなっ」

「魔王殺しがばれると掛け率が下がるのう」


 テュールとガッチンがしょんぼりしていた。


「ユニコの調子が良くありませんし、アガタ先生も手傷を負っていますから、2倍ぐらいの掛け率は付くでしょう」

「まあ良いか、何に使うでもないしな」

「まあねー」


 ゾーイが担架で運ばれていく。

 私は救護室まで付き添って行った。

 まだ意識は戻らないようだ。


「ゾーイ、おおっ、ゾーイ」


 ゾーイのお父さんのドミニオ子爵が救護室に寝かされた彼女の手を握って泣いた。


「アガタ夫人、ありがとう、ユニコーンで解呪して頂いて、感謝します」

「ガルデラに乗っ取られていたのは短時間だから後遺症は残らないと思いますよ」

「本当にありがとう。感謝しますっ」


 救護室のゾーイのベットにウォーレンやデイモン、ピーコックなどが来ていた。


「まったくチャドの畜生め、せっかく面白い仕合だったのによう」

「ゾーイは調子がよかったからなあ。惜しいよなあ」

「本当ね、私も残念だわ」

「しかし、あんたあ、世が世なら侯爵さまだったのかい」

「魔王殺しだぜえ、王子と結婚して皇太子妃の線もあっただろうぜ」

「ないない、王子には綺麗な婚約者がいたもの」

「やはりアガタ先生はただ者では無かった。俺の目は正しかった」


 魔王殺しがばれると、皆の見る目が変わるから嫌だったのよね。

 ヘラルドにも知られて無かったのに。


「ゾーイ、良くなるといいなあ」

「まったくだなあ、また彼女と戦いてえよ」

「きっと大丈夫だ、俺の妹弟子はそんなに弱くない」

「ウォーレンの立場だと、姉弟子じゃあねえのか?」

「ちげえねえ」

「ち、ちがう、アガタ先生への弟子入りは俺が先だっ、俺が兄弟子だっ」


 トーナメント騎士達の馬鹿話を聞いているとほっとするわね。

 ドミニオ子爵も優しい目で騎士達を見ていた。


 ゾーイが呻いて薄く目を開けた。


「ゾーイ、気が付いた?」

「アガタ……、私どうしたの? 三合目で負けたの……?」


 私はゾーイの髪をゆっくりと撫でた。


「チャドが呪われた武器を仕込んだ仕合槍をあなたに持たせたの、自分を失っていたのよ」

「……そうなんだ、悔しい……」


 ゾーイの目からポロリと涙がこぼれた。


「元気になったら、私の牧場で続きをやりましょう」

「うん……、うん」

「今はゆっくり休みなさい」

「うん」


 せっかくの晴れ舞台で戦えなくて、さぞ悔しいでしょうね。

 でも意識が戻ってほっとしたわ。


 ゾーイはまた目を閉じて眠ったようだ。


 さて、私には最後の仕上げがまっているわ。

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