第三十四話 不滅のガルデラとの闘い
神速で槍が交差しはじき返しはじき返される。
ゾーイの体を無傷で取り戻したいから必殺の技を仕掛けられないっ。
『槍だ、アガタ! 奴の槍を弾き飛ばせっ!!』
「解ったっ!」
ユニコーンに乗るというのは馬に乗るのとは違う。
ガルデラが馬を動かすには拍車をかけたり手綱を引いたりしなければならないが、ユニコと私なら言葉を交わさず意思疎通が出来る。
軽度の念話みたいなものらしい、私がほんの少し後退したい、と思えば、彼はそれをダイレクトにくみ取ってくれて、後退してくれる。
前に出て、突きを放つ。
後ろに少し戻って奴の槍を避ける。
細かくテクニカルに動ける。
「くっそっ!! ユニコーンのやっかいな所だなっ!!」
ガルデラは手綱を引いて旋回しながら槍を振る。
ユニコーンは馬よりも馬力があるから
「すげえ、アガタ夫人、なんて腕前だ!」
「ゾーイはどうしちまったんだっ!? あの禍々しい槍はなんだっ!?」
チッ!
ガルデラの槍が肩をかすった。
かすり傷から呪いが打ち込まれ、激痛で私の動きが止まる。
止めと打ち込まれたガルデラの突きをユニコが後退して避ける。
忌々しい槍だわ。
直撃すると呪いで動けなくなる。
「ユニコ、チャージ!」
『よしきたっ!!』
前はいなないていただけだったのに、声が聞こえると調子が狂うわね。
彼の声は他の人には聞こえて無いみたいだし。
私は
聖なる力が穂先に移り青い炎のように揺らめいた。
「アガタ!! テュール!!」
甲冑を着込んだガッチンが現れた。
身の丈ほどもある斧と盾を持っている。
懐かしい姿ね。
「うけとれっ!!」
「ありがてぇっ!!」
ガッチンが投げた短弓と矢筒をテュールが空中で回転しながら受け取った。
すかさず彼女は矢をつがえて速射する。
良い牽制になるわっ。
「はははっ、この娘の体に傷つけたく無いって見え見えの射撃なんざ怖くねえよっ!!」
「減らず口を抜かすなっ! 寄生虫めっ!!」
何とかしてゾーイの体から呪いの槍を外さないとっ。
ガッチンが盾を構えてガルデラの前に出た。
槍が盾に当たって火花を散らすけれど、打ち抜けるほどの威力はまだ無い。
「くっそうっ!! 堅てえなっ、ドワーフめっ!!」
ガルデラの馬の足が止まった隙に、ユニコをダッシュさせて突きを打つ。
からめるようにして呪いの槍を巻き込む。
「ざっけんなっ!!」
この技はガルデラに使った事があった。
振り回すようにしてガルデラは穂先でユニコの首の付け根に切りつけた。
ザッシュ!!
呪いの斬撃がユニコの血と反応して紫色に光りながら対消滅していく。
下から打ち上げるようにして奴の槍を聖なる力がこもった穂先で打つ。
「ぐあっ!! ちいいっ!!」
くそっ!! 浅いっ!!
焦るな。
焦って雑な攻撃をすれば反撃されて落ちるのはこちらだ。
そうなったらゾーイは絶対に助けられないっ。
『くそうっ!! てめえっ!! 俺の可愛いゾーイたんから出て行けってんだっ!!』
「何言ってるかわかんねえよっ!! 処女厨の淫獣めっ!!」
やはり他の人にはユニコの言葉はわからないのか。
カキンカキンと聖なる力が宿った
「くそっ!! なんてもろい体だっ、もう息が上がってきたぞっ!!」
そうかっ、ゾーイは
勝機!!
「こんな見え見えな突き!」
ガルデラは槍をくねらせて突きの方向を変えようとした。
そこへテュールの矢が飛び、ガッチンが馬の足下に盾で突撃する。
「くっ!」
手綱を持ってガルデラは馬をターンさせようとした。
私は
「なにっ!!」
上から力を掛けて奴の槍を押さえ込んでいく。
「ぐっ!! くそっ!! 力がっ!!」
ゾーイの筋肉は限界なのだろう、抵抗が弱い。
ガッチンは馬の足に向けて盾を押し込むようにして突撃する。
「ユニコ!」
『おうよっ!! 転がすぜえっ!!』
ユニコが馬の足の間に頭を突っ込んで角を使って器用にねじった。
馬は足を取られて転倒した。
その間も私はガルデラの槍を押さえつける。
「がっ!! くそっ!!」
馬の転倒に巻き込まれてガルデラは地面に倒れた。
それでも奴は槍を手放さない。
「触るなっ!! テュール!!」
「あ、そうかっ!!」
槍に飛びつこうとしたテュールをガッチンが止めた。
そう、握ってもぎ取ろうとすると乗り移られる可能性がある。
「ユニコ!!」
『うぇーいっ!!』
ユニコは変なかけ声をして蹄でガルデラの手を蹴った。
「がっ!!」
ガルデラの槍はゾーイの手から離れ地面に転がった。
私は
さらにユニコが飛びかかるように、その角でガルデラの槍の柄を突く。
バリバリバリと紫色の稲妻が飛び散りガルデラの槍は砕け散った。
ガハッとゾーイが血を吐いた。
「ちっきしょう……、間が悪いったらねえぜ……、また会おうぜ、アガタ」
「もう、二度と会いたくないわ……」
ゾーイの顔色が青黒くなっていく。
呪いが体に回っているっ!
「ゾーイ、ゾーイ、しっかりしなさいっ!」
私はユニコから飛び降りゾーイに駈け寄った。
息が荒い。
意識も無いようだ。
このままでは死んでしまう。
『どけっ、アガタ、ゾーイたんの呪いは俺が吸い込む!!』
「え、そんな事をしたら……」
『うるせえっ! ユニコーンの誇りにかけてゾーイたんは殺させやしねえっ!』
ユニコはゾーイの胸元に角を突っ込んだ。
紫色の瘴気が角を伝ってユニコの体に入り込み、体に灰色のぶちが出来ていく。
「大丈夫、ユニコ」
『だ、大丈夫だ……、まかせろーっ……」
ユニコは地面に膝を付いたが角からの呪いの吸収をやめない。
体に灰色のぶちが増えて行き、嫌な感じの震えが胴体にはしった。
ユニコのぶちが増えるに従ってゾーイの顔色は良くなり呼吸が安らかになっていった。
「これがユニコーンの解呪……、一度見た事がある」
「ああ、わしも見たわい……」
ええ、ミカが魔族の呪いを受けた時の事ね……。
あの時のユニコーンは死んだわ……。
『なあにあの時とは違う、短時間だ、どって事はねえよ……』
そう言うとユニコはどうっと地面に倒れた。
息が荒い。
ユニコ、ユニコ、死んでは駄目よ。
私は無意識に彼の首を抱きしめていた。
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