第三十三話 三合目、ゾーイ豹変す
「や、やりますね、ゾーイ。見違えるようです」
ウォーレンが仕合槍を渡しながら、そう言った。
「レベルが上がって調子に乗っているのよ。ああいう時は実力以上の動きが出来るわ」
「気を付けてください、アガタ先生」
言われるまでも無いわ。
ゾーイはランスボーイから仕合槍を受け取った。
!
あら……。
なんだろう。
仕合槍を受け取ったゾーイが背を丸めた。
嫌な感じの気が吹き出してきている。
どこかで、こんな気を……。
ゾーイは頬面を上げた。
ガラス玉のような目でこちらを見た。
『まずいぞ、何か変だ』
「何かしら……」
主審の笛も鳴っていないのにゾーイがこちらに向けて馬を走らせた。
頬面を上げたままのゾーイがこちらへ襲歩(ギャロップ)で近寄ってくる。
「ゾーイ選手! 戻りなさいっ!! 失格にするぞっ!!」
主審の制止の言葉も聞かずゾーイは更に拍車をかけて速度を上げる。
紫色の瘴気がゾーイの体からにじみ出していた。
呪いの武器?
いや違う、これは前の戦争で散々味わった感触。
魔族の気配だっ。
「アガタッ!! 会いたかったぜっ!! ぎゃはは、大きくなってやがってっ!!」
ざあっと血の気が下がっていった。
「不滅のガルデラ!?」
「ああっ!! 覚えて居てくれたかっ!! そうだっ、魔王軍四天王、土のガルデラが華麗に復活だぜっ!!」
ゾーイの顔で不滅のガルデラはそう吠えると私に向けて仕合槍を振る。
私が反射的に仕合槍で受けるとガルデラの持つ仕合槍が砕け、中から捻れた奴の槍が顔を出した。
『くそっ!! 槍を媒体に復活しやがったかっ!!』
「ゾーイから出て行きなさいっ!! この
「嫌なこった、俺を退散させたきゃ、この体の娘ごと打ち殺すんだなあっ!!」
魔王軍四天王の中でも一番最悪な奴が復活するなんてっ!!
伯爵が私たちの妨害の為に、ガルデラの槍をゾーイの仕合槍に仕込んだのっ!!
ガルデラはレーンを分ける柵を馬で蹴り壊し、こちらのレーンに入り込んで私に槍を打ち込んでくる。
私の仕合槍が砕けていく。
「どうしたどうした、アガタ、お前、ずいぶん弱くなったなあっ!!」
「くっ!」
奴の攻撃を避けながら伯爵の席に目をやると、彼は慌てていた。
そうか、魔王軍四天王なんかを復活させたら、この領丸ごと全滅されかねないわっ。
伯爵が馬鹿でもそこまではしないわねっ。
「ウォーレン!!」
「はいっ! アガタ先生っ!!」
ウォーレンが
私は空中でそれを受け取った。
「そうかあ、何年も時間がたったんだな、何年ぐらいだアガタ」
「七年よ、さっさと地獄に帰りなさいっ!」
「思ったより短いなっ、あははっ、お前も弱くなったが、俺もこの体に馴染むのに時間が掛かる、良い勝負かもしれねえなっ!」
ガキンガキンと、ガルデラの槍と私の
ゾーイの技量ではないわ。
あの頃のままの粘っこいガルデラの槍さばきだ。
ユニコとガルデラの馬はぐるぐると相手の左側を取るように回り始める。
背に乗った私とガルデラは槍で戦い合う。
「アガタッ!!」
テュールが走り寄ってきて、短剣を投げた。
ガルデラは器用に槍で弾いた。
「テュールもいるなあ、けけけっ、ああ、懐かしいぜっ!!」
「てめえなんか見たくもねえやっ! ゾーイから出て行け寄生虫めっ!!」
「そうはいかねえ、そうはいかねえ、この世に幾つも仕掛けた俺の復活手段だ、次にいつ復活できるか解らねえからなあ。このまま力を蓄えて、次の魔王へ昇格させて貰うぜっ!! お前達はそれの贄になってくんなあっ!!」
不滅のガルデラは土をつかさどる魔将軍だ。
文字通り
必ず、いくつもの復活手段を隠している。
私たちは何回もこいつを殺した。
魔王戦争が終わって、縁が切れたと思ったのに、ゾーイの体を乗っ取って復活するだなんてっ!!
「ぎゃっはっはっ!! ざまあみろっ!! 俺を馬鹿にした報いを受けろっ!! 呪われた武器で正気を失えっ!! 女が
観客席でチャドが狂ったように笑って宣言した。
ちっ。
ガルデラを地獄に送り返したら、お前も後を追わせてあげるからね、チャド!!
「何時の世でも、ああいう馬鹿がいるんで、俺は助かるんだよっ!! さて、勇者や聖女が出てくる前に、お前達二人を平らげて、この場の人間を皆刈り取って力を蓄えさせてもらうぜっ!!」
「やってみろっ!! ユニコーンライダーは、お前のような邪悪を赦さないっ!! かならず倒して、ゾーイを取り戻してやるっ!!」
こちらの戦力はテュールに、ガッチンに、私。
魔王軍四天王の一人相手に少し分が悪いか。
だが、引くことは出来ない。
時間が経てば経つほどゾーイからガルデラを追い出す事が難しくなり、奴は体に馴染み、力を強くする。
倒すならば、今、この場でだ!!
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