第二十五話 ゾーイ対デイモン戦、決着!!
先にゾーイが動いた。
軽い突きをデイモンに向けて放つ。
デイモンは警戒して防ぐように槍を動かした。
1ポイント先取したのが裏目に出ているわ。
戦いに行かないで守りに行ってる。
ゾーイは槍を引き寄せ次の突きを……。
あら、四段目を繋いでいるのかしら。
二本目もデイモンの槍に阻まれた。
ゾーイは弓のようにしなって三発めの突きをデイモンにぶち込んだ。
流星みたいな速い突きだ。
三段突きを想定していなかったのだろう。
デイモンは二発目の突きをしのいで気が緩んだらしい。
迎撃もできなかった思いっきりの突きは運悪くデイモンの下げた頭に直撃して打ち抜いた。
ドカーーン!!
爆発するようにゾーイの槍が砕け散り、デイモンは姿勢を崩した。
そして倒れていき落馬した。
競技場が沈黙に包まれた。
誰もが信じられない光景に微動だにできない。
デイモンの空馬が柵の終点に、ゾーイが乗った栗色の馬が反対側の終点に達した時、副審の右旗が一斉に上がった。
どんっ!! と観客席が揺れた。
歓声と割れんばかりの拍手が競技場を包み込んだ。
すごいわゾーイ、
ゾーイは面頬を上げ、両手を上げて、うおーと吠えていた。
「勝者、ゾーイ!! 決勝戦進出だ!」
地面に座り込んだデイモンが兜を脱いでそれを地面にバンバン叩きつけていた。
鬼みたいな形相になっているわね。
「ぎゃー、儲かった儲かった!! すげえすげえっ!!」
「ぐぬぬ、もっと賭けておくんだったーっ!」
テュールは大喜び、ウォーレンは悔しがっているわね。
周りのおじさん達は本命のデイモンの敗北に悔しがっているけれど、凄い物を見た感動の色も浮かべているわ。
凄いわゾーイ、あの三段突きはあなたのオリジナルな技になったわ。
二回牽制して、最後に渾身の突きを入れる。
「あー、もー、デイモンはなんで最後に守りに入るかなあっ」
「二合目の速い攻撃でヤバイと思ったんだろうさ」
「前に二回勝ってるからなあ。舐めすぎだ」
「ゾーイは今回の大会ですんげい成長したな。これで明日の決勝戦はアガタ夫人対ゾーイか、面白えっ!!」
テュールがピョンと手すりから飛び降りた。
「さあ、換金にいこーっ!!」
「そうですね」
「そうね」
賭け屋横町に行くと、全体的にみんな沈んでいて、一部の人だけが上機嫌だった。
もう、明日の私とゾーイの賭けも始まっているようで、掛け率が黒板に出ていた。
「おお、だいたいトントンの所がおおいなあ、二人とも1.2とかかあ」
「情報が少ないですからね」
「あんま儲からなくてつまんね」
テュールは大穴が好きよね。
賭け屋のおじさんはホクホクした顔で私たちを迎えてくれた。
「いやあ、やったねえ、ゾーイちゃん、デイモンを落馬させるたあ、たいしたもんだ」
「明日も楽しみにしてなー」
「そうだね、明日は決勝よりも、チャンピオン戦が荒れそうだ」
黒騎士は不動のチャンピオンだから、挑戦者の倍率が上がりそうだわ。
テュールが換金して金貨の革袋が二つになった。
ウォーレンも私も払い戻し金を受け取った。
「もっと賭ければ良かった」
「あまり賭け事にはまり込んでは駄目よ」
「は、はい、アガタ先生っ!」
テュールが革袋を振ってにひひと笑った。
「けけけ、嬢ちゃん景気がいいなあ、物騒だからおじちゃんが金袋を持っててやるよ、よこしなっ」
ガラの悪い男が三人テュールを取り囲んだ。
テュールはゲラゲラ笑っていた。
「死にたくなきゃ、帰れクズ野郎」
底冷えするような声をテュールが出すと、ゲスたちは一瞬怯んだが、怒りの表情を浮かべた。
「なんだと、このガキッ!!」
ゴキャン!!’
テュールはぱんぱんの金貨袋で一番前の男の顎をぶちかましてひっくり返した。
「せ、先生……、だ、大丈夫でしょうか、テュールさん」
「全然平気よ」
テュールはもの凄い速度でぐるぐると回って暴漢三人を地面に吹っ飛ばしていく。
「まだやんのかっ、ああ?」
「ひ、ひいい、な、なんだお前は……」
「テュールさまだ、覚えとけ若造。次絡んできたらナイフを使うからな」
「へ、へいっ」
「ご、ごめんなさいっ」
「た、たすけてっ」
ゴロツキ三人組は泣きながら逃げ出していった。
テュールは肩をすくめた。
「ハーフリングというのも大変ですねえ」
「子供に見られるからねえ、すぐ馬鹿が寄ってくんのよ」
「しかしお強い!」
「まーねー、ほどほど」
何がほどほどなんだか、と思ったけど黙っていた。
テュールの戦闘力はそこら辺の騎士よりもずっと上だ。
魔騎士二人と戦って倒していたのを見た事があるわ。
待機所に戻ると、ゾーイがニコニコして走り寄ってきた。
「勝ったよ勝ったよ、アガタの技のお陰よっ!!」
「すごかったわね、もうあの三段突きはゾーイの技よ」
「そうかなそうかなっ、出した瞬間、これは行くって思ったけど、落馬させられるなんてっ!」
「あの速度の突きを頭にくらったらなあ、落ちるぜ」
ウォーレンがしみじみと言った。
「流星みたいな綺麗な突きだったわ」
「よおしっ、あの技は流星突きって名付けようっと!」
「格好いいわね」
テュールがゾーイの腰に抱きついた。
「ゾーイ、ありがとっ、儲かったっ」
「あら、テュールさん、私に賭けてくれてたの、嬉しいっ!」
待機所の奧のガッチンの目も笑っていた。
「よかったのう、これで念願のアガタ対ゾーイじゃな」
「そうなのよっ、明日、がんばりましょうねっ!」
「うん、楽しみましょう」
明日の決勝が楽しみだわ。
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