第二十四話 ゾーイ対デイモン戦、激闘!

 主審が笛を二回鳴らした。

 赤い中央旗が上がった。

 それぞれのレーンの端の馬止旗が下げられた。


 競技場は水を打ったようにシンと静まりかえり緊張感が張り詰める。

 観客席に居る人の全ての眼が中央旗が降ろされるのを待ち続ける。


 ぱん。


 中央旗が振り下ろされた。

 ほぼ同時に馬止旗が上がる。


 ゾーイとデイモンの馬が同時にスタートした。

 ぐんぐん速度を上げて同時に襲歩ギャロップに入った。


 柵の中央で両者は対峙した。


 ドカン!


 デイモンの槍がゾーイの胴丸に入り、砕け散った。

 ゾーイの槍は外れる。


 が。


 ゾーイは衝撃を上手く逃がして落馬はしていない。

 副審の右旗が三本同時に上がった。


 そうよ、そうよ、まだ一ポイント。

 大事なのは生き残る事。

 落馬をしなければ次があるわ。


「ああ、畜生! デイモンのビックマウスめっ!!」

「ゾーイを落馬させるんじゃないのかっ!!」

「ゾーイ良く耐えた~~!!」


 テュールが手すりの上で足をジタバタさせた。


「くっそー、一ポイント取られたーっ!」

「いや、あれは落馬しなかった事を褒めてあげないといけませんよ」

「はがゆーーいっ!!」


 こちらの近くに来たデイモンは苛立っていた。

 冷静さを欠いているわね。

 デイモンとゾーイでは技量に天と地ほどの差があるけど、それでも落馬はさせられなかったみたい。


 逆にゾーイの方は動きの堅さが取れているわね。

 良い傾向だわ。

 でも、技量の差は埋めがたいでしょうね……。


 両騎馬はレーンを変えた。

 スタート位置で待機する。


 主審の笛が高らかに二回鳴る。

 中央旗が上がる。

 馬止旗が下ろされる。


 緊張感が個体のように固まっていく。

 競技場は沈黙に包まれる。


 デイモンがイライラと肩を揺すっている。

 ゾーイは静かに佇んでいる。

 あれ、まさかゾーイは……。


 中央旗が振り下ろされた。

 馬止旗が上がる。


 両騎馬がダンッと音を立てて走り始めた。

 栗毛のゾーイの馬と葦毛のデイモンの馬が交差する。


 ゾーイの槍がデイモンの槍の下に潜り込む。

 デイモンは察知して、跳ね上がったゾーイの槍を避けた。

 ゾーイは槍を引き、さらに巻き込むように突きを出す。

 デイモンは大きく引き、巻き込みのタイミングを外して再度突く。

 一瞬の攻防だ。


 ゾーイの手も早いが、デイモンも良く防ぐ。


 ゾーイの槍が横振りされた。

 三段目!

 デイモンは虚を突かれたのか一瞬動きが止まる。

 そうね、トーナメント馬上槍仕合で振り技は見た事ないでしょうね。

 そこからゾーイは三段突き、の、一撃目を出した所で馬と馬がすれ違い、離れた。


 凄いわね、ゾーイ。

 四段目の最初まで出したわ。

 なんて才能なの。


 もっとも、軽い突きだったのでデイモンの肩にかすっただけで副審の旗は上がってないけどね。


 でも、二合目も生き残ったわ。


「め、めちゃくちゃ早くて何をやってたのか解らんっ!」

「ウォーレンは駄目だなあ。アガタの五段攻撃の四段まで出しかけたんだよ。いやあ、手が早いなあ。だけど、トーナメント馬上槍仕合の性質上、あれが限界かあ」

「振り技なんか初めて見た」

「デイモンも戸惑ってたわね」

「振りが当たったらポイントは入るの?」

「入らないわ、トーナメント馬上槍仕合でのポイントは突きだけよ」

「す、凄いなあ、ゾーイは、さ、さすがは我が妹弟子だ」

「おめーの方がずっと格下だ」

「うぐぐ」


 二本目も落馬させる事ができなかった上に手数で押されてデイモンは頭に血が上っていた。

 仕合槍で柵を殴って破損させていた。

 対してゾーイは静かだった。


「これは化けたかな」

「お、そうかもなっ、いっひっひ」

「化ける? 化けるとは何ですかアガタ先生」

「戦場でたまにあるのよ、戦いの中で一瞬で次の段階にレベルが上がる事があるの。そういう時に化けたと言うのよ」

「格上に恐れないで挑んで生き残ると、たまに起こるんだ」

「そ、そんな事が」


 さて、デイモン、化けた直後の相手は怖いわよ。

 あなたも自分の経験で知っているでしょう。


 さあ、泣いても笑っても最後の三本目だわ。

 ポイントはゾーイが0ポイント、デイモンが1ポイントね。


 デイモンは苛立ってランスボーイに怒鳴っていた。

 ゾーイは静かに槍を取り替えていた。

 うんうん、化けた直後はなんだか世界が隅々までくっきり見えて、気持ちがどっしり落ち着くのよね。

 でも、技量が一段階上がって少し勝ち目が出ただけよ。

 技量はやっぱりデイモンの方が上だから油断しちゃだめよ、ゾーイ。


「こりゃすげえ、ゾーイが三合目まで残りやがった」

「しかも二合目、すんげえ早業だったぜ」

「くっそ、コレは行くかもなっ、ゾーイの掛札が大穴だぜっ」


 ふっふっふ、私も賭けているのよ。

 悔しがっているおじさんを見て少し優越感に浸るわ。


 主審が笛を二回吹いた。

 時を止めたように観客席が静まりかえる。


 中央旗が振り上げられた。

 全ての観客が旗が振り下ろされるのを待つ。


 そして、中央旗は勢い良く振り下ろされ、馬止旗が上がる。


 二人の騎士は猛烈な速度で馬を駆り、中央地点へと近づいて行く。

 頑張って、ゾーイ!!

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