第二十三話 ゾーイ対デイモン戦が始まる

 待機所の馬房にユニコを入れた。


「さあ、ゾーイに賭けに行こうっ!」

「そうね」

「行きましょう」


 三人で歩き出した。


 馬房からゾーイが顔を出した。


「頑張ってねゾーイ」

「がんばるよーっ」


 彼女が競技場に出るのはもう少し後だ。


 兵士さんが寄って来て、革袋を渡してきた。


「賭けのボーナスだ」

「ありがとう」


 掛け金ボーナスは二十二テラン入っていた。

 だんだん上がるのね。


 三人で賭け屋横町へと行く。


「デイモン優勢デイモン優勢、ゾーイ大穴当たればでかいよ~~」

「デイモン1.1倍、ゾーイ4倍、ゾーイ無いかゾーイ無いか」

「何本目でゾーイが沈むか、一本目2倍、二本目2.5倍、三本目まで持ったら3倍だっ、さあ、賭けて賭けて」


 デイモンの人気が高いようだ。

 賭け屋の黒板を見ても、大体デイモンが1.1から1.3倍で、ゾーイが3倍から4倍だわ。


「デイモン、人気が高いわね」

「黒騎士に次ぐ実力者ですからね。ゾーイはルーキーなので」

「だが、ゾーイが勝つ、これはハーフリングの勘だっ」


 そうなれば良いけど。

 ちなみにテュールは賭け事が上手いけど外さないわけではない。

 たまに一文無しになって私にお金を借りに来た事もあったわね。


 いつもの賭け屋さんでも普通の勝ち負けの賭けの他に、ゾーイが何本目で沈むかの賭けが出ていた。


「おっちゃーん、ゾーイに全部~~」

「うおお、マジかい、おいちゃんは嬉しいけど、良いのかい?」

「かまわーんっ!!」

「毎度あり」


 おじさんはニコニコしながら掛札をテュールに渡した。


「俺はゾーイに7テラン」

「全部賭けろっ、ヘタレめっ!」

「え~~」


 ウォーレンはゾーイの勝利が確信できないみたいね。


「ゾーイに二十テラン賭けるわ」

「はい、アガタ夫人、毎度あり」

「もっと賭けなさいよ、アガタッ」

「ゾーイが勝つと思ってるけど、私は沢山お金を賭ける事はしないのよ」


 二十テランでも一家が一ヶ月食べられるぐらいのお金よ。

 賭け事にそんなにお金を出すのは抵抗があるわ。


「まったく、ギャンブラーの風上にも置けないっ」


 私はギャンブラーじゃないわよ。


 いつもの平民の立ち見スタンドに行くといつものおじさん達がニコニコしながら場所を空けてくれた。


「いやあ、凄かったなあ、まさか競馬乗りで侯爵さまの突進を避けるとは」

「痺れたぜ、アガタ夫人!」

「ありがとう、運が良かったのよ」

「決勝戦が楽しみだなあ、これは黒騎士まで行けそうだぜっ」

「当然だ、アガタ先生は素晴らしい人だ」

「うへへ、アガタが人気だな~」

「ありがたい事ね」


 テュールがいつものように手すりに座った。



「それでは、準決勝第二仕合を始めるっ」


 主審が宣言すると、ゾーイとデイモンが馬に乗って競技場へ入ってきた。

 デイモンは黒っぽい甲胄を着た精悍な感じの騎士ね。


「きゃーっ、デイモンさまーっ!!」

「今日も素敵よ~~!!」


 二階の貴族席からご令嬢たちの黄色い声の声援が飛んだ。

 デイモンはニヤリと笑って手を上げて答えた。


 ゾーイの動きがなんだか硬いわね。

 飲まれてるのかしら。


「ゾーイはデイモンに勝ったことがありませんからね」

「苦手な相手なのかしら」

「二回当たって、二回とも負けてます。相性の問題かもしれませんね」

「アガタの仕合は絶対勝つと思うから安心なんだけど、ゾーイの仕合はいつもハラハラするなあっ」

「まだまだあいつはルーキーですからね」

「ウォーレンは中堅なの?」

「いえ、俺もルーキーです、ゾーイと同期ですね」


 そうなのね。


 デイモンが面頬を上げて天に向けて指を一本出した。


「一合目だ、一合でゾーイを落馬させてやる。その後の牧場の奥さんも一合で落馬させるっ!! トーナメント馬上槍仕合に女なんか出る幕じゃあねえんだっ!! 女は台所に引っ込んでろ、と俺は言いたいね!! 今回の大会で、俺は優勝して黒騎士を倒すっ!! 調子も絶好調だっ!! これからは、デイモン・スウィフト、俺の時代だっ!! おまえらは手持ちの金を全部俺に賭けろ!! 損はさせねえよっ!!」


 観客席がどよめいた。


 おお、凄い自信ね。

 一合で落馬予告かあ。

 相当やるわね。

 動きに強者の風格があるわ。


 ゾーイが面頬を上げた。


「世界はねえ、女から生まれたのよ!! 女を馬鹿にする者は女に泣くんだわっ!! 私は必ずデイモンに勝って、ユニコーンライダーのアガタと決勝を戦うんだからっ!! 史上初の女性の決勝戦よっ!! これからは女性の時代なんだから、みんな私を応援してねっ!! 絶対よ!!」

「ゾーイがんばれーっ!!」


 テュールが良く通る声で応援すると、ゾーイは笑って手を振って答えた。


「ゾーイの動きが硬いなあ、これは不味いぜ」

「二合は持ってくれねえと、掛け金がおじゃんだ」

「肩に力が入ってんな、ゾーイの悪い癖だ」


 周りのトーナメント通らしいおじさんたちもゾーイ不利の予想のようだ。


「ゾーイッ!! 肩の力を抜きなさいっ!!」


 私が声を掛けると、彼女はハッとしたように肩を回した。

 うんうん、それで良いのよ。


「彼女、少し落ち着きましたね」

「冷静にならないと、勝てるものも勝てないわ」

「まったくなあっ」


 テュールが懐から小樽を出してコルク栓を抜き、ぐびぐびとエールを飲んだ。

 頑張ってよ、ゾーイ。

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