第二十六話 トーナメントパーティにでかける

「こんにちわザマス。というか汗臭いからシャワーを浴びてきなさいザマスよ」


 あ、この人の事とパーティの事をすっかり忘れていた。


「シャワー?」

「あ、こっちですアガタ先生、水ですがシャワーがあります」

「私も浴びようっとっ」


 テュールが近寄ってきた。


「わ、私はホテルで浴びるから」

「そう、パーティはどこでやるの?」

「競技場ホテルのホールよ、じゃあ会場でね」


 ゾーイは手を振って去って行った。

 私たちはウォーレンの案内で待機所に隣接するシャワー室に行った。

 男性騎士が素っ裸でシャワーを浴びていたが、女性が入るからおまえら出て行けとウォーレンが怒鳴って追い出した。

 彼は入り口で見張っていてくれるみたいね。


「ウォーレンはすっかり毒気が抜けたなあ」

「そうね、なんだか素直になったわね」

「馬鹿だから元々素直なんだろうな」


 テュールはシュルシュルと服を脱いでシャワーブースに入り水を浴びた。

 私も服を脱ぎ、水を浴びる。

 ああ、気持ちがいいわね。

 井戸で水浴びをしなくて済むだけでもありがたい。


「ゾーイはホテルで温水シャワーなんだろうなあ」

「そんなに豪華なの?」

「お貴族様以外お断りだからねえ、魔導温水シャワーぐらいあるでしょ」

「伯爵領の競技場なのに豪華ね」

「ちょっと豪華すぎるよね。トーナメント馬上槍仕合の上がりだけで採算合ってるのかね?」

「どうだろう。賭けがあるから、そこから儲けがでるんじゃない?」

「賭けは掛け率で儲かり方が違うからなあ、安定してないと思うけどね」


 さすがに伯爵領の懐具合までは解らないわね。

 トーナメント馬上槍仕合会場の豪華さに比べて、麓の領都はそんなに豪華ではない。

 わりと普通というか、他の街に比べるとちょっと落ちるわね。

 石畳も所々荒れているし。


 備え付けのタオルで体を拭いて普段着に着替えた。

 テュールはそのままの服を着直した。


「ありがとうウォーレン」

「い、いえその、大丈夫ですっ!」

「にひひ、水浴び上がりの女性はいろっぺえからなあっ」


 テュールが笑いながらそう言うとウォーレンは目をそらした。


「ととと、とんでもないっ」


 ほんと、素直になったわね。


 待機所に戻るとマーガレット夫人が馬車の中でドレスの着付けをしてくれた。

 テュールには目が覚めるようなオレンジのドレス、私にはシックな黒のドレスだった。


「アガタ夫人には感謝してるんザマス」

「あら、どうして」

「アガタ夫人とゾーイさんがトーナメント馬上槍仕合の決勝を争うという事で領の女性たちがたいそう勇気づけられているザマス」

「あらあら」

「特にああたの活躍ザマス。平民の平凡な奥様だって、騎士達をぶっ倒せるんだって、皆、大喜びしてるザマスよ」

「それは嬉しいわね」

「どちらが勝っても黒騎士に挑めるザマス。頑張って勝って欲しいザマスわね」

「頑張るわよ、マーガレット夫人」


 マーガレット夫人に手伝って貰って綺麗にドレスを着る事ができた。

 テュールを見ると、まるで妖精のように可愛い。


「うおー、アガタすごいっ、深窓のご婦人みたいだぞ」

「テュールも王族のお嬢様みたいよ」

「お二人とも素敵ザマス。さあ、中日のパーティを楽しんでくるザマスよ」

「ありがとうございます、マーガレット夫人。お世話になりました」

「ありがとっ、夫人!」

「いいんザマスよ。ドレスメーカーの誉れザマスから」


 そう言って、マーガレット夫人はホホホと笑った。

 うん、賞金が余ったら、子供達のよそ行きをマーガレット夫人のお店で作ろうかな。


「ひょー、綺麗じゃなアガタ、テュールも可愛いのう」

「ありがとうガッチン、ウォーレンは?」

「あいつもパーティに参加だと言ってホテルに戻ったぞ」

「そう、お留守番はお願いね」

「飯をかっぱらってきてやるよ」

「おう、楽しみにしとるぞテュール。酒もな」

「おうよっ」


 テュールと二人で綺麗なパンプスも借りて待機所の中を歩く。

 馬房にいる馬丁さんたちが口笛を吹いた。


「ひゃっはは、文字通り馬子にも衣装だなあ、アガタ夫人」

「ほっときなさいよっ」

「いやあ、きれいだぜ~~」


 馬丁さんたちと私は付き合いが気安いので軽口もでるわね。

 結構顔見知りの人もいる。


 待機所を出て競技場ホテルまで歩く。

 トーナメント馬上槍仕合の中日なので飲み歩いているお客さんも多いわね。


「いらっしゃいませ、パーティの参加証はございますか?」

「無いわ」

「無いよ、黒騎士に誘われたんだけど」

「少々お待ち下さい」


 門番のボーイさんが中に入って相談しているようだ。

 帰ってきた。


「失礼いたしました、アガタ夫人とテュールさまですね。どうぞお通りください」


 私たちは競技場ホテルの中に入った。

 初めて入るけれどきらびやかなホテルね。


 ロビーには着飾った上流階級の人がたくさんいた。


「あら、アガタ夫人よ」

「まあ、平民にしては良い服を着ているわね」

「たかだか牧場の女房が生意気な」

「恥ずかしくは無いのか」


 なんだか珍獣扱いね。


「アガター!! 綺麗ねーっ!!」


 二階の手すりからゾーイが身を乗り出して手を振っていた。


「素敵です、アガタ先生」


 礼服を着たウォーレンが寄ってきて私の手を取った。

 ちゃんとした服を着るとウォーレンもなかなか格好良いわね。

 ゾーイも階段を蹴立てて下りてきた。


「ぎゃーっ! テュールも可愛いーっ!!」

「えへへ、良いだろ良いだろ」


 テュールはスカートの端を持ってくるりくるりと二回転した。

 ひらひらとフリルがはためく。


「入場とかエスコートとかあるのかしら?」

「無い無い、伯爵の挨拶を聞いてからみんなで飲み食いして親睦を深める会よ」

「ダンスタイムに俺と踊っていただけませんか、アガタ先生」

「ダンスなんか踊った事無いわ」

「そうですかー」


 ウォーレンはあからさまにがっかりしていた。

 領のお祭りの群舞は踊れるけれどもね。

 パーティのダンスなんかやった事が無いわ。

 戦争中のパーティでも、大抵はテュールとガッチンと食事をむさぼっていたわね。

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