第十三話 ゾーイとトミーの戦い

 ゾーイは槍を構えてトミーとの激突に向け襲歩ギャロップで馬を駆けさせる。

 落ち着いてるわね。


 トミーの槍は長かった。

 槍の長さは自由なので極端に長くする騎士もいるが、長くなると取り回しが悪くなる。

 ゾーイの槍は普通の長さだ。


 両方の騎馬にも甲胄が付けられている。

 トーナメント馬上槍試合用の人の鎧は特に左側に装甲が厚い。

 槍は抱え込むようにして右脇の金具に付けておく騎士が多い。

 長い槍は重いからね。


 柵の中央あたりで二騎は激突した。

 トミーの槍の下をかいくぐるようにしてゾーイは槍を突き出す。


 ドカン!


 トミーの胴丸でゾーイの槍が砕けた。

 副審が右旗を上げて行く。

 有効!

 胴にヒットしてゾーイが1ポイント先行だ。


「よしっ!!」

「やったあっ!!」


 レーンを変えて二本目に入る。


 中央旗が上がる。


 ん、なんだか違和感がある。

 この位置からはトミーの動きがよく見える。


 中央旗が振り下ろされ、馬止旗が上がる。


 トミーが何か狙っている。

 両者が中央で激突する。


 トミーが体をねじるようにしてゾーイの兜を狙って槍を上げた。


 ベテランだけあって上手い!


 ゾーイの兜に当たってトミーの槍が砕けた。

 衝撃で彼女の槍は外れる。


「あーー」

「あーーっ」


 副審の右旗が上がっていく。

 ゾーイがふらついたが、すぐに立ち直り落馬は免れた。


 ゾーイ1ポイント、トミー2ポイントだ。

 泣いても笑っても次の突撃で勝負が決まる。


 ゾーイ、頑張って。


「頑張れゾーイっ!!」

「がんばれがんばれーっ!!」

「ゾーイ、頑張って!!」


 私たちが声援を送ると、ゾーイがこっちを見て小さく手を振った。

 そして首を振って、レーンを変える。


 中央旗が上がる。

 競技場全体がしんと沈黙し、スタートを待つ。


 中央旗が振られ、馬止旗が上がる。

 両方の騎馬がぐんぐんと速度を上げる。

 泣いても笑っても最後の一本!


 中央でトミーがさっきのように長槍を合わせてきた。

 ゾーイの槍がトミーの長槍を跳ね上げ、引き戻し、そして突いた。


 ドカン!!


 トミーのあご当てにゾーイの突きが綺麗に入り、槍が砕け散った。

 衝撃でトミーは馬の上で一回転し、そして落馬した。


「うおおおおっ!! 二段突きだああっ!!」

「おおおおっ!! やったやった!!」


 まったく、若い子は覚えるのが早いわね。


「勝者! ゾーイ・ドミニオ!! 二回戦進出!!」


 競技場は万雷の拍手に包まれた。

 その中でゾーイは片手を天に突き上げて勝ち誇る。

 やった、偉いわゾーイ。


「くそー、先に二段突きを覚えられたっ」

「あんたも覚えなさいよっ」

「そ、そうはいいましてもね、テュールさん」

「あ、お前、物覚え悪い方だな」

「うううっ」


 ウォーレンとテュールの掛け合いを聞きながら、私はエールを飲み干した。

 なかなかトーナメント馬上槍試合も楽しいわね。


 賭け屋横町に行って掛け金を払い戻して貰った。

 ちょっと儲かったわ。


「けけけ、晩飯代を稼いだぜ」

「俺もちょっと儲かった」

「そういえば、ガッチンの賭けを預かっておけば良かったわ」

「ああ、ガッチンはアガタに全部賭けるってさ、遊びではやらないってさ」

「あらあら」


 あまり掛け金が多くなると受ける賭け屋さんが無くなりそうね。


 待機所に戻るとゾーイが戻っていた。


「やったよーアガターッ!!」

「やったわね、二段突きも凄かったわ」

「追い詰められてたから、ダメ元で出してみたの、上手くいって良かったーっ!!」

「はらはらしたよー、おめでとー」

「二回戦進出おめでとう」

「ありがとう、テュールさん、ウォーレン」


 ゾーイはぴょんぴょん跳ねていた。


「でも、トニーも上手かったわね」

「そう、長槍を置きにくるんだけど、タイミングとコントロールが良いのよ。地味だけど強い騎士よ」

「くそー、俺も二回戦に出たかったー」

「前回は二回戦まで行ったっけ?」

「おう、一回戦がピーコックだったから勝ち抜けたんだ」

「今回はアガタだからねえ、次回は頑張りなさいよ」

「おうっ、次回は優勝めざすぜ。なので、五段突きを教えてください、アガタ先生」

「私も私も」

「そうね、今回のトーナメント馬上槍試合が終わったら牧場で教えてあげるわよ」

「ワシが仕合槍も作ってやるぞ」

「よっしゃーっ!! ガッチン師匠の槍だー」

「わーいわーいっ」


 まったく若い子は明るくて良いわね。


「そういえばアガタ、あなたの牧場で馬の調教もやってるの?」

「やってるわよ」

「だったら、私の馬を預けようかなっ」

「俺は新しい馬をアガタ先生の牧場から買うぜ、生産もやってるんですよね」

「やってるわ、そうね、亭主が帰ってきたら相談してみるわ」


 新しい貴族のお客さんが増えるのは嬉しいな。

 将来の希望が見えてくると、なんだか明るい気分になるわね。


 思い切ってトーナメント馬上槍試合に出て良かったわ。

 人と知り合って、仲良くなるのは大事な事ね。

 ここの所、辛いことばかりで忘れていたわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る