第五話 競技場で馬上槍仕合の準備をする
ガッチンの馬車にのって丘の上の競技場に入った。
石作りの豪華な競技場でゴーバン伯爵が
競技場のスタンドの高い所は貴族の指定席で、平民は地面にちかい立ち見席で観戦する。
今回の春の
「まて、ここから先は関係者以外立ち入り禁止だっ」
若い兵士がガッチンの馬車を止めた。
「参加者よ」
「参加者? ああ、あんたが牧場のおば……、奥さんか」
若造の兵士がニヤニヤ笑って感じが悪いわね。
「話は聞いている、せいぜい頑張るんだな、そこの入り口から入れ」
ガッチンは無言で馬車を動かした。
「ぶっ殺すか、あの小僧」
「いいわよ、ただの雑兵じゃない、私たちの目的は伯爵のビジネスをぶっ潰す事よ」
「へへ、そうだな」
建物の奥に馬車溜まりがあった。
ユニコを下ろして歩かせると、馬房があってその隣に控え所らしい場所が切ってあった。
「アガタだな、ここを使え」
兵士が案内したのは馬房群の隅の一角だった。
ガラクタが積んであって散らかっていた。
「ひでえな」
「大丈夫?」
「まあ、酷い場所での作業は慣れてらあな」
ガッチンは乱暴にガラクタを蹴り出し、携帯式の炉を置いた。
懐かしいわね。
いつもキャンプ地で炉に向かってみんなの装備の修理をしてくれたわね。
私は馬房にユニコを入れた。
「甲胄は出来てる?」
「ああ、ぬかりねえよ」
ガッチンは馬車から箱を出して中身を取り出した。
「とりあえず着てみろ」
「解ったわ」
私は服を脱いで全裸になった。
「ぎゃあああっ、ちょっちょっと何してるのあなたはっ!!」
大声を出して赤銅色の甲冑を着込んだ娘が走ってきた。
「男性だっているのよっ! 恥じらいは無いのっ!! 信じられないわっ!」
私は黙ってインナーを着込んだ。
何を言ってるのだろうと、ガッチンと顔を見あわせる。
「甲胄を着るとき裸になるのは当然でしょう? 恥ずかしそうにする方がいやらしいわよ」
「そうだ……。ああ、アガタ、俺たちが悪い。こりゃ戦場のマナーだ」
「ああ、そうか」
戦場では小娘が素裸になって着替えていても誰も気にしなかった。
性的な眼というのは平和の象徴みたいな物ね。
「ほ、本当にもう、幕を張ってそこで着替えなさいよ」
「そうね、次からは馬車の中で着替えるわ、ありがとう。あなたも
「そうよっ、私はドミニオ子爵の娘ゾーイよ」
女性の
ゾーイは、女学校を出たてぐらいの年齢でハツラツとしたお嬢さんだった。
「私はアガタよ」
「知ってるわ、牧場の奥さん、今回の
それは噂になるだろう。
私はガッチンが差し出した
うん、ぴったりだ。
さすがはガッチンだわ。
「うわ、綺麗な
「わかるかいっ、ミスリルの
「ひゅー、お宝じゃないの」
ゾーイは人なつっこい娘のようだ。
興味深そうにガッチンの炉なんかを見ている。
怒り狂った表情の男が三人、私たちの馬房に近づいて来た。
「おいっ!! お前がアガタだなっ!!」
「そうよ」
男たちは私の返事を聞くと上着を脱ぎ逞しい肉体を晒した。
「お前のお陰で俺たちは
「ふざけやがって、平民の女がよおっ!!
「お前はここで死ぬんだ、俺たちに殴られて事故死だっ!!」
殴られて死んだら殺人で事故じゃないわよ。
ゾーイが恐怖の表情で私と相手方三人を見た。
ガッチンが馬車の中から
あら、昔使ってた時より少し長いわね。
そして、ガッチンは馬車の上からハンマーを振り上げ、男の一人に普通に振り下ろした。
ドカン!
鈍い音を立てて男は血を流して吹き飛んだ。
「あっ、な、何をしやがるっ!」
「ひ、ひきょうっ!!」
馬鹿じゃ無いかしらね。
人に殺すと言ったら殺されても文句は言えないのよ。
ガッチンに気を取られている二人の足下を
「あっ!」
「なっ!!」
殺してもいいのだけれど、仕合が始まる前だから問題になると不味いわね。
仕方が無いので槍の柄でバンバンとぶん殴るだけで済ませた。
「まだ、あなたたちは
「あ、そのっ、あのっ」
「わ、解りました、ご、ごめんなさいっ!!」
「気絶した人を持ってどっかに行ってくれる?」
「は、はいっ、ごめんなさいっ!!」
三人組は気絶した奴を抱えて逃げていった。
「す、すっごいわねっ!! 本当に牧場の奥さんなのっ!?」
「そうよ、ゾーイ」
「槍捌きが凄いわっ!! あなたと
「ありがとう、どこかで当たればいいわね」
「当たるとしたら決勝ね、楽しみだわっ」
ガッチンは無言で炉の前に座った。
「ガッチン、
「まかせとけよっ」
ガッチンは良い笑顔でガハハと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます