今、出来ることを
「ロゼ先パイ、コンサートは……?」
連れられるまま店外へと脱出したキルシェは困惑しながら尋ねる。
「公演は夜からの予定で、さっきリハーサルが終わったところだったの。楽屋に戻ろうとしたら会場のスタッフさん達が急に倒れ始めて……」
どうやらロゼが今夜出演する予定だったコンサートの会場は、この付近にある施設だったらしい。そこで突然意識を失った人々が続出したことでロゼとレオンは魔獣の出現に気付き、気配を追ってここへ駆け付けたのだという。
「ロゼお嬢様、魔獣は現在逃走中。建物の上部に登って移動しています」
魔獣を追跡しながら無線で現状を報告するレオンの言葉に、ロゼは表情を険しくさせる。
「天井が崩落したのはそのせいね」
「っ!ロゼ先パイ!シトラス、シトラスが瓦礫の下敷きに……!」
思い出したかのようにハッとした表情で叫ぶキルシェだが、ロゼは冷静沈着な口調で告げる。
「大丈夫よ。シトラスちゃんは生きてる。意識を集中させて」
「意識って……!」
こんな時に何を言い出すのかと困惑するキルシェだったが、レオンは続ける。
「先日の訓練を難なくクリアしたキルシェさんなら出来るはずです。意識を集中させて、シトラスさんのエナジーの流れを読み取ってください」
人形にエナジーを流して動かす訓練のことか、と合点がいったキルシェは目を閉じて意識を集中する。すると程なくして、うっすらとではあるがシトラスの居場所を感じ取ることができた。
どうやらシトラスは気を失っているようだが、瓦礫の中が空洞になっていたらしく下敷きにはなってはいないようだ。怪我をしている様子も見られないことに安堵するが、同時にもうひとりのエナジーも感じることに気づく。
(こっちは、エリックさん……?)
シトラスはエリックに庇われたことで怪我をせずに済んだようだが、彼の方は無事とは言い難かった。シトラスのエナジーよりも不安定に感じるところを見ると、どうやら彼女を瓦礫から守った際に負傷したらしい。
「これ以上攻撃を受けたらいつ瓦礫が崩れるかわからないわ。まずはこの建物を魔獣から守りましょう。シトラスちゃんが意識を取り戻して変身してくれたら一番いいのだけど……」
未だ目を覚ます様子のないシトラスの気配を感じ取ったのか、ロゼは難しい表情を浮かべる。
「大丈夫、シトラスなら絶対起きます!大丈夫だって、信じないと……!!」
「キルシェ………」
ポメポメはハッとしてキルシェを見上げる。
キルシェはきっと、店が襲撃を受ける前のシトラスとエリックの会話を思い出しているのだろう。
自信を失いかけるほど悩んで、それでも友達を、仲間を心から信じていたシトラス。ならば、自分たちもシトラスを信じてなければ。キルシェの意志を感じ取ったロゼは、ふっと微笑む。
「……そうね。ならば、わたし達はわたし達の役目を果たしましょう」
「ロゼお嬢様、キルシェさん!魔獣がそちらに行きます!」
追跡から戻ったレオンが、ロゼ達に向かって叫ぶ。ライオンの姿の変身を解いたレオンは、普段の執事服ともライオンの姿とも違う─その中間のような姿をしていた。
ポメポメが人型になった時と同じように、耳と尻尾が獅子のそれになっており、流れるような銀髪は背中まで伸びている。そしてポメポメと同じように、白で統一された不思議な装束に身を包んでいる。
(これが、レオンさんの天界での格好なのかな……?)
見慣れない姿に、キルシェは内心でそう推察する。どうやら聖獣族のヒト形態は、デフォルトで耳と尻尾が生えているらしい。
「キルシェ、変身ポメ!!」
ポメポメの呼びかけに、キルシェはハッと顔をあげる。
「そうだった、『キルシェ、変身(コンベルシオン)』!!」
キルシェはカーディガンのポケットからピンク色の宝石がついたブローチを取り出し、変身魔法の呪文を詠唱した。
ブローチから溢れ出したピンク色の光が瞬く間に、キルシェの全身を包み込む。
その光が弾けるとそこには、可憐な魔装ドレスに身を包んだ魔法少女に変身したキルシェの姿があった。
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