6手目 死の淵!辛苦の果て!

体がズルズルと、重いヘドロの中に引き込まれて行く。

慌ててその力に逆らうが...今度は、頭の上からもそれが覆い被さって来た!



。o(やばい!呼吸ができなくなる!)



両手を開き、爪磨きから手のひらを開放する。

そして、平泳ぎのようにヘドロをかき分けて、脱出を試みる。

が、しかし、行きたい方向とは逆へ、体はどんどん吞み込まれて行く。



。o(ん!うっ...。)



ついに鼻と口までも覆われた感触があった。

息を吸おうとすると、ヘドロが入り込んでしまうため、呼吸は止めるしかない。



。o(嫌だ、苦しい!死んでしまう!)


。o(どうにか!助けて!助けて!)



死へのカウントダウンは始まった。

呼吸困難となって死ぬのがどれほど苦しいのか、喘息で亡くなった友人の話を、その親御さんから聞いた事がある。



。o(来るんじゃなかった!そもそも足止めだけで良かったのに。)


。o(デビュー戦で死ぬのか!ああ...ああぁ...。)



苦しさのあまり、後悔が押し寄せる。

この段階を経て、諦めからの死の受容へ心は移行するのだろう。

どのように心境が変化しようとも、呼吸できない苦しみは増す一方だ!



。o(うくっ!くっ!あがっ!)


。o(あっ!ああっ!あっ!)



もはや思考の余裕さえも無くなった。

鼻と口を思い切り開けて吸い込みたい。

重く、鈍くしか動かない足と手で必死にもがく。



。o(これで人生は終わりなのか。)



諦めが頭を支配し始めた。

だけどそれでも、苦しさを許容する事はできない。


ロクに身動きできない中、ヘドロの中をさまよい、体の背後に回っていた右手の小指に、何かが触れた感触があった。

何かわからないけれど、それがあったと思われる所へ、手のひらを向ける。

今度は、手のひらにそれが触れた。



。o(んっ!うっ!なんだ!?)



何かわからない。

それどころじゃない。


手のひらに伝わる感触から、それは丸い形状だとわかった。

それがわかったところで何も解決はしない、が。

死の淵に居る今、意味も無くそれを力強く握った。



グチャッ。



その丸い何かが、手のひらの中で潰れた。

瞬間...



ブファワァアアアアアアアーーーーーー!!



右手を中心に、体に纏わりついていた重く粘るヘドロが、一気に体から弾け飛んだ。

急に体が軽くなり、バランスを崩して地面に倒れ込む。



ガチ:「オェッ!ペッ!ベペッ!」



口に入っていたヘドロを吐き出し、続いて鼻の穴のそれも出す。



ガチ:「ブフーッ!フーッ!フーッ!」



臭いも何もどうでもいい。

口で酸素をおもいっきり吸い込んだ。



♪ピロリロリーン♪



まだヘドロが残る耳に、軽快な音が届いた。

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