第2話 【新入りは髪の長いガイコツ】
本日2話目の投稿です。
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戦争が始まった。
とは言っても、それまでに依頼主との交渉とか、物資の補給とか、装備の点検とか、そういう諸々の雑用があったことは言うまでもない。
そして何の因果か、そういった雑用の大半は俺の仕事なのだ。
「もう忙しすぎて引退して田舎で静かに暮らしたい」
「勘弁してくれ。お前に今辞められたら団が崩壊する」
「……それも問題だな」
キリエの言う通り俺が1人抜けただけで傭兵団が機能しなくなるというのは、それだけ傭兵団の人材の層が薄いということだ。
というか、傭兵団《影狼》は所属している人材は豊富な方だが、その大半が前線で戦うことしか出来ない脳筋だ。
そんな中で俺は貴重な管理職を担当しており、更に本業は治療班で、おまけに戦争の際には前線で戦う役目もあるというのだから、俺の負担が大きいのは当然だった。
「せめて後継者が育つまでは待ってくれ」
「後継者ねぇ」
一応、俺の後継として交渉担当者、治療班員、物資調達員、情報収集班などを育てている最中ではあるが、いかんせん識字率も低くて教育もままならない世界なので初歩の初歩からの教育になるので使い物になるまでにまだまだ時間が掛かる。
「最低でも後10年は掛かりそうだな」
「…………」
ゲンナリと言うとキリエはそっと目を逸らした。
キリエ自身、自分が脳筋に属する者であり、戦闘以外にはあまり役に立たないことを自覚しているからだろう。
というか、そもそも話として傭兵団《影狼》が大陸有数の傭兵団として名を馳せたのは俺が交渉担当になって以降の話だ。
それ以前の傭兵団は基本的に脳筋の集団であり、数ある傭兵団の中の1つに過ぎなかった。
ぶっちゃけ、俺が傭兵団を躍進させたのだと言っても過言ではなかった。
お陰で俺が無駄に忙しくなってしまったが、そういう意味では自業自得だ。
そういう諸々のことがあって、やっと戦争が始まるわけだが、その開始に行われるのは――互いの軍の指揮官による口上である。
要するに自分達の正当性を拡声の魔術を使って大声で叫び合うのだ。
「毎回のように思うことだが、これを聞くと凄く白々しい気分になるな」
「……同感だが戦争には必要なことだ」
これから殺し合いをするというのに、どうしてどちらが正しいなどという自己弁護を聞かされなければならないのか。
とは言っても、キリエの言う通りにこれは必要なことだ。
戦闘開始前に口上があるということは、戦争にもルールがあるということだ。
口上なしに戦争が始まってしまった場合、ルール無用の殺し合いになって明確な終わりが見えなくなる。
それにルールがあるからこそ非人道的な行動は極力避けられる傾向がある。
それなら戦争なんてするなよ、と根本的なことも思うが、そういう時代なのだから俺にはどうしようもない。
そうして長々と口上を聞かされた後、やっと戦闘が開始される。
とは言っても最初はセオリー通りに弓兵による矢の応酬と魔術による遠距離攻撃の撃ち合いだ。
それが終わったら馬に乗った騎兵による突撃が開始される。
俺達のような傭兵団の仕事は歩兵vs歩兵の戦いになってからだ。
うん。俺も含めて大半の傭兵というのは弓も使えなければ遠距離用の魔術も使えないし、馬にも乗れないものなのだ。
近接武器で敵と殺し合うのが傭兵の仕事。
「さて、そろそろ行くとするか。背中は任せる」
「へいへい」
俺は走り出すキリエに付いて一緒に走り出す。
基本的に俺達の相手は敵軍に雇われた傭兵達だ。
露払いとして敵陣の前衛を務める傭兵達に風穴を空け、味方の主力を敵の主力に無傷で届かせるのが俺達の仕事だ。
「ふっ!」
そうして接敵した瞬間に刀を抜き放ち、敵をスパスパ斬り捨てていくキリエ。
「き、斬り姫だ! 斬り姫が出たぞ!」
「盾持ちを前に出せ!」
「……有名だねぇ」
キリエに気付いた敵軍が騒ぐが、キリエの恰好は和服に似た装備なので見る奴が見ればすぐに分かってしまうくらい珍しく目立つので当然だ。
「おっと」
そんなキリエの後ろに回り込んで攻撃しようとする奴を俺が片っ端から蹴り殺していく。
俺の靴は先代ナンバー3の養父から譲り受けたものであり、中には特殊な鉄板が仕込まれている。
これで敵を蹴ると頭なんて一発で砕けてしまうという凶悪仕様だ。
「千脚だ! 斬り姫の後ろに千脚もいるぞ!」
「頭を防御しろ! 奴に蹴られたら頭が砕けるぞ!」
「……有名だな」
キリエと同様に俺に気付いた敵軍が騒ぎ始める。
俺の装備は個人的には黒い装束とか戦争中は目立たない奴が良いのだが、先代の養父から継承した装備は何の因果か真っ白なローブに近い代物だった。
これも養父の信念の1つで、医療に関わる者として清潔感のある白を装備するということで、こうなった。
ちなみに背中にはデカデカと赤い十字架のシンボルがプリントされており、どっからどう見ても赤十字のメンバーにしか見えない。
いや。これに関しては俺が洒落でプリントしたら養父が甚く気に入ってしまい、それ以降は傭兵団の医療班のシンボルとなってしまったのだ。
はい。俺のせいですね。
それにキリエとはもう何年もコンビを組んで戦場で活躍しているので、こういう時は目立ってしまって少し面倒だと思う。
とは言え、俺とキリエで先陣を切って突き進み、その後を傭兵団のメンバー達が追って穴をこじ開ける活躍するのはいつものことだ。
役割上、俺とキリエが目立ってしまうのは避けられない。
そして目立つということは矢や魔術から狙われることになるのだが……。
「ほっ。よっと」
「気の抜ける声を上げるな」
俺は、その全てを蹴り砕いていき、キリエは刀で斬り落としていく。
たとえ魔術による攻撃だったとしても、魔力を篭めて蹴ったり斬ったりすれば大抵の魔術は蹴散らせてしまう。
今更、俺達が遠距離攻撃でどうにか出来ると思ったら大間違いだ。
数時間後、作戦は問題なく成功して味方の本隊が敵の本隊に突撃を開始して――時間を置くこともなく敵軍から白旗が上げられた。
これにて戦闘は終了である。
「はぁ、疲れた。もう帰りたい」
「苦労を掛けるが、そういう訳にはいかんだろう」
本来なら、これで俺達は撤収して残りの報酬を貰って帰るだけなのだが、俺にはまだ仕事が残っている。
「お前が居ないと治療班が動けないぞ」
「……分かってるよ」
そう。俺は前線で活躍した後だというのに治療班の班長として負傷者の治療を担当しなくてはならないのだ。
養父だって現役の頃にここまで忙しくはなかった筈だ。
用意された天幕の中で、まずは傭兵団の負傷者から治療を開始する。
戦争だったのだから当然のように両軍に負傷者が出ているが、優先すべきは俺の所属する傭兵団《影狼》だ。
俺とキリエが先陣を切った為に負傷者は少数ではあったが、やはりゼロには出来ない。
過去には勝手な行動をして孤立して死傷してしまう者もいたのだが、現在では軍事行動中の規律が作られて――というか俺が作って徹底させたので負傷者は兎も角、死者が出ることは稀になっている。
数百人規模で行動して死者ゼロというのは誇っていい戦果だと思う。
まぁ、死んでさえいなければ俺が治せるというのも大きいかもしれないが。
傭兵団の負傷者を治療した後は味方の軍から出た負傷者の治療に移る。
傭兵団の治療は無料で行うが、ここからは当然のように有料だ。
俺の所属する傭兵団の懐が潤っている理由の1つでもある。
まぁ、中にはどう見ても瀕死の重傷の奴が運び込まれて来るのだが……。
「これは無理だ。次」
俺は即座に切り捨てて次の患者に向かう。
いや。本気を出せば助けられるのだが、俺の魔力だって無限にあるわけじゃない。
俺は比較的魔力量が多い方だが、1人の重傷者を助ける為に魔力を使い果たせば次の患者に使う魔力がなくなってしまう。
地球で言う患者の優先治療順位――トリアージは重要な項目だ。
ちなみに養父は人に優先順位を付けることに忌避感を持っていたが、それが出来ないのなら医療行為になど従事するべきではないと俺が説教した過去がある。
人を助ける仕事をするのなら人を見捨てる覚悟も同時に持たなければ話にならない。
無論、そうして見捨てた患者の知り合いに文句を言われることは度々あるのだが……。
(構っていられるか)
俺は忙しいのである。
◇◇◇
戦争が一段落して数日後。
やっと傭兵団の本拠地に帰還してノンビリ出来る――訳もなく仕事に忙殺された。
「過労死したら俺は誰を恨めばいいんだ?」
戦争の後処理を進めながら俺はそうぼやくことしか出来なかった。
このままだと冗談抜きで過労死一直線なんだけど。
「そう言うな。今日はこれからお前の補佐となる者の面接があるのだろう? 良い人材がいればお前の負担も軽くなる」
「……だと良いけど」
俺だって過労死一直線な自分の現状は理解しているわけで、その負担を少しでも減らす為の人材を募集していたのだ。
そうして募集した人材との面接が始まったのだが……。
「ユツキ……と申します。ごほっ、ごほっ」
「…………」
現れた奴の第一印象は髪の長いガイコツだった。
うん。なんというか異常なほどに痩せ細っており骨が浮き出ているし、髪もボサボサで肌はガサガサな女だ。
女だよな?
正直、痩せすぎていて性別が判別出来ない。
(大丈夫か、こいつ?)
正直、期待の新人と思っていただけに、今にも死にそうな状態の奴の登場に不安しか出て来ない。
「あ~……、そのだな……」
「お願いします! なんでもします! 雇ってください!」
どうしようかと思っていたら、その髪の長いガイコツ――ユツキは座っていた席から床に這い蹲って土下座して頼み込み始めた。
「……勘弁してくれ」
どうしてこいつが面接に通ったのかというと、それまでの審査にやって来た人材が他の傭兵団のスパイとかハニトラ要員ばかりだったからだ。
そういう奴らを除外していった結果、残ったのがユツキだった。
なにより俺がどれだけ調べても他の組織との繋がりが見つからなかったことも高評価だ。
それに彼女は他の傭兵団で管理職をしていた経験があり、そういう意味でも即戦力となれる逸材だった。
ちなみに彼女が傭兵団を辞めることになった理由だが、その傭兵団では管理職というだけで評価されない環境だったからだ。
これは彼女が所属していた傭兵団に限った話ではなく、この世界の傭兵団では前線に出て戦うことが最も評価されるポイントとなっている。
だから基本的に管理職というだけで傭兵の中では見下されることになる。
(阿呆だな、そいつら)
まぁ、その傭兵団はユツキが抜けた影響でドンドン衰退していっているようだが、そういう奴らに限って衰退の原因がユツキを追い出したことだとは気付かないのだ。
それくらい傭兵団にとって管理職という立場は地位が低い。
俺は大丈夫なのかって?
俺の場合は力尽くで自分の地位を確保したし、何か面倒なことを言ってくる奴がいれば容赦なく蹴り倒して来た。
力こそ全ての傭兵団だというなら、力で黙らせるに限る。
「……とりあえず診察だな」
必死に土下座を続けるユツキに呆れつつ、俺は彼女を自分の診療室まで運び込んで診察することになったのだが……。
(こいつはひでぇや)
彼女の症状は俺が想像する100倍は酷かった。
うん。なんというか地球で言うところの癌に近い悪性の腫瘍が体中に転移してしまっている。
正直な話をすればよく生きているものだと感心するレベルだ。
地球の名医だったとしても匙を投げただろう。
とは言っても、ここは魔術の存在する異世界。
「ちょっと眠っていろ」
「あ」
俺は麻酔魔術と同時に睡眠魔術で彼女を眠らせて――治療を開始する。
まだ採用するかどうかも検討中の彼女を治療する義理などないのだが……。
(きっと養父なら放っておかなかっただろうしな)
恩義のある養父に習って珍しく人助けなんてしてみる気になったのだった。
癌細胞とは何らかの原因によって遺伝子に異常が起こり、そのことで限りなく増え続け、別の場所に移動してしまう細胞のことを言う。
癌細胞は増殖してまわりの臓器に影響を与え、また、身体のあちこちに転移して他の臓器にも影響を与えるようになる。
だから地球の医療では基本的に癌になったら、その部分を切除するか重い副作用のある薬で症状を抑えるしかない。
それなら異世界ではどうするのかと言えば……。
「《仮死》」
魔術を使って患者を仮死状態にして細胞の活動を止めてしまえば良い。
無論、この状態を長時間継続すると本当に死んでしまう可能性が高いが、短時間であれば問題ない。
そうして仮死状態にした患者の患部に手を当てて……。
「《切除》……《再生》」
悪性の部分を魔術で排除して、同時に患部を魔術で再生させる。
これも養父に習ったものではなく俺のオリジナル魔術だ。
こうして俺はユツキの身体から使い物にならなくなった臓器を切り捨て、新しい臓器を再生していった。
そうして身体から粗方悪い部分を交換した後、最後に栄養剤を点滴して今日は終了だ。
流石にこれ以上は魔力が持たないし、完全に治す為には経過を観察する必要がある。
◇◇◇
数日おきに診察と治療を繰り返した結果、1ヵ月程でユツキは見違えるような健康体へと変わった。
最初のガイコツが嘘だったかのように身体はふっくらと曲線を描く女性らしい体型となり、髪は元の薄いブラウンの色と艶を取り戻し、同じくブラウンの色の瞳を持つ目は意思の力を取り戻し、肌は潤いに輝いていた。
うん。普通に美少女になって治療した俺が驚いたくらいだ。
「お願いします、家に帰してください! 弟達や妹達が私の帰りを待っているんです!」
まぁ、本人は面倒を見ている弟達と妹達を気にして帰りたがっていたが、流石に治療中に帰還は許可出来ないので代わりに面倒を見る羽目になったが。
ちなみにユツキの弟と妹というのは実の兄弟姉妹ではなく、同じ孤児院で育った年下の孤児達ということだった。
俺の養父が建てた孤児院とは違い、相当困窮した孤児院でユツキが仕送りしなければ立ち行かないレベルの貧困ぶりだったが。
おまけに借金まであるということで俺が肩代わりして面倒を見ることになってしまった。
実際には今は俺が管理している養父の建てた孤児院に移しただけとも言う。
ユツキが前の傭兵団で働いていた頃はギリギリで生活出来ていたが、管理職が評価されずに追い出された後は相当困窮して生活が立ち行かなくなってしまったらしい。
おまけに病気にもなって、どうしようもなくなった結果、最後に頼ったのが傭兵団《影狼》だったという訳だ。
まぁ、俺が管理職を募集したからだけど。
「ともあれ、これからは俺の補佐として存分に働いてもらうぞ」
「は、はい! 助けた頂いた恩は忘れません! なんでもします!」
「お、おう」
面接のときも言っていたが、若い女が《なんでもします》はあまり言わない方が良いと思うのだが、どうやら前の傭兵団をクビになってから色々と苦労したようだ。
ちなみにユツキは俺の1つ下の18歳だった。
相性が良ければ、このまま俺の嫁になってもらうのもいいかもしれない。
◇◇◇
そうしてユツキが俺の下で働き始めて数日が経過した。
「あの、クルシェさん」
ユツキは俺の呼び方に色々迷っていたようだが、最終的に名前にさん付けで呼ぶことになった。
どうやら俺が三席と呼ばれることを好んでいないことを察してくれた結果のようだ。
そうして俺に話し掛けて来たユツキなのだが……。
「このままだと過労死しますよ」
「……そうな」
まさに俺の現状を正しく理解してくれていた。
「私が前に働いていた傭兵団でもそうでしたが、管理職の仕事が多過ぎます。もっと人を雇って仕事を分散出来ないのですか?」
「……それな」
俺の現状はまさしくユツキの言う通りであり、人を雇って仕事を分散したいところなのだが……。
「その第一号がユツキだからなぁ~」
「…………」
ぶっちゃけ、忙しすぎて人を雇うという労力に意識を割くことすら出来なかったというのが真相だ。
そんな中でなんとか雇えたのがユツキという訳だ。
「それに下手な人材を集めると大半がスパイかハニトラ要員だからな。裏を取るだけでも仕事が増える」
「……私も調べたんですか?」
「なんの裏も出て来なくて逆に怪しく思えたくらいだよ」
本当に何処とも繋がりがなくて逆に怪しかったという本末転倒な結果だった。
「そもそも、どうして傭兵団って管理職が軽視されるんですか?」
「前線に立って戦うと死ぬリスクがあるから」
「えっと……どういう意味でしょう?」
「自分達は死ぬ危険を冒して働いているのに、管理職は部屋の中でぬくぬくと働いていてズルイ、とか思っているのさ」
「…………」
「傭兵って仕事を選んだのは自分達なのにな」
「……ですよね」
「まぁ、俺にそんな文句を言ってきた奴は例外なく蹴り倒してやったがな」
無論、ユツキに文句を言う奴がいても蹴り倒す所存である。
「クルシェ、次の仕事が来たぞ」
「……そして無茶ぶりする副団長がいるから俺の仕事はドンドン増えるわけだ」
「なるほど」
「なんだ?」
部屋に入って来たキリエは俺とユツキに視線を向けられて困惑していた。
ユツキは思っていたよりもずっと優秀だった。
流石に手が倍になったとは言わないが、1.7倍くらいにはなって少しだけ俺の方に余裕が出来て来た。
「このままだと私も時期に過労死するんですけど」
「……次の募集を考えるか」
とは言ってもユツキのように裏のない相手なんて早々来るものでもないし、暫くはこのままになりそうだ。
「そういえば副団長さんは手伝ってくれたりしないんですか?」
「よく覚えておけ、ユツキ。どんな見た目でも傭兵になるような奴は基本的に戦うことしか出来ない脳筋なんだよ。以前に書類仕事を手伝わせたら10分で逃げ出したぞ」
「……知りたくなかったです」
俺とユツキは深く嘆息して書類仕事に没頭するのだった。
「でも忙しすぎることを除けば前に勤めていた傭兵団よりはずっと働きやすいですよ」
そりゃ、前のユツキが働いていた傭兵団では管理職は差別されるような環境だったわけだし、そこと比べればここは働きやすいだろうが……
「……その忙しすぎるところが致命的な短所だけどな」
「あはは。過労死レベルですからね」
やっと仕事が一段落して休憩でお茶を飲んでいたら、そんな話になった。
「前の職場もお給金は良かったんですけど、毎日毎日嫌味を言われて仕事を押し付けられてストレスが半端なかったですよ」
「病気になったのって、それが原因じゃね?」
「……かもですね」
思っていた以上にユツキの前の職場は悪辣な環境だったらしい。
「まぁ、その傭兵団はもう直ぐ潰れそうだけどな」
「あの時はそれだけが心の支えでした。早く潰れろって毎日思っていましたよ」
「ユツキなしで、どうして継続出来ると思ったんだか」
裏で支えてくれる管理職なくて傭兵団が大成することはありえない。
ユツキもそれが分かっていたから前の職場が潰れることを思って心の支えにして来たのだろう。
「そういや、そいつらって復職を頼みに来なかったのか?」
「来ませんよ。私なんて……というか管理職が重要だなんて欠片も思っていない人達でしたから」
「傭兵って馬鹿が多いんだな」
「クルシェさんも一応は傭兵じゃありませんでした?」
「俺は良いんだよ」
本業は治療師なんだから。
「そもそも私にだって一応はプライドというものがあるんですから。ちょっと頼まれたくらいでは絶対に戻るつもりはありませんでしたよ」
「さよか」
それで死に掛けていたのだからどうかと思うが、仕事にプライドを持つことは悪いことではないと思う。
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