第5話 サイン

「本当に気づいてなかったんだ」

「はい」

「こっちは顔見てすぐにわかったから、てっきり昨日、あの後ホテルまでつけられたのかと思った」


かっこいいい人っていうのは、すぐ後つけられたりしちゃうんだ。


「見えないんだったらあの時何で眼鏡外してた?」

「眼鏡が曇ったから拭こうと思って」

「久遠遥のことだとよく話すのに、それ以外はあんま喋んないんだ」

「すみません」

「サイン欲しい?」

「えっ?」

「欲しいか聞いたの!」

「でも、久遠先生は滅多にサイン書かないって」

「よく知ってるじゃん。でもオレが頼んだら大丈夫。スマホ出して。出来たら連絡する」

「会社に連絡をいただければ」

「会社にバレていいの? オレ、言うよ。唯織が好きな作家にサインねだったって。まずくない?」

「あ……」

「どうする? サイン諦める? 連絡先交換する?」

「交換します」

「ホントに好きなんだ。ロック解除してスマホ貸して」


声のする方にスマホを差し出す。


「唯織って、テレビとか見ない人?」

「ドラマは見ます」

「どんなの?」

「海外ドラマ」

「歌番組とかは?」

「見ません。眼鏡返してください」

「はい、どうぞ」


スマホと一緒にようやく返してもらった眼鏡をかけて視界が戻る。


「じゃあ、連絡する」

「はい。では、失礼します」




ホテルを出てスマホを見ると、少ない電話帳の中に「ハルキ」という名前と番号が新しく登録されていた。

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