第5話 閑話 ??の思い出 ※??視点

 ――梅雨のある日のこと、私は図書委員として受付カウンターの席に座り、本を読んでいた。

 そして、私の隣では、愛しの彼が本を読んでいる。

 ちなみに、お互いに本を交換して読んでおり、彼が読んでいる本は私のお気に入りの作品だ。内容は「ピアニストの夢を持つものの才能がなく、夢を諦めようとした主人公が、天才ピアニストのヒロインからの指導を受けて、秀才として名を馳せるようになる。」というものだ。

 それにしても、彼の横顔……かっこいいなー……ハッ!

 思わず見とれてしまい、私は頭を横に振る。すると、本を読み終えたのか彼は私の方を向いた。


「ん?どうしたの?」

「ううん!な、なんでもないよ!」

「そう?」


 彼が首を傾げる。

 言えるわけがない、あなたの横顔に見とれてましたって。


「そ、それは置いといて、どうだった?その本。」

「うん!すごく良かったよ!特に初めてコンクールでミスをして落ち込んだヒロインを主人公が励ますシーンは、主人公の成長を感じられて好きだなー。」


 彼が笑顔で好きなシーンを教えてくれる。そのシーンは私も大好きなシーンだ。

 私の好きなシーンを彼も好きなってくれて、私はすごく嬉しくなる。


「ほんと!?私もそのシーン好きなんだ!」


 そうして、私たちはお互いに語り合った。


 語り合うこと数分後、彼がふと思い出したかのように口を開いた。


「――あっ、そろそろ図書室閉めないと……」


 あっ、もうそんな時間か……もうちょっとこの時間が続けばいいのに……

 窓を見てみると、外は雨が降っており、薄暗くなっている。


「雨、降ってるね。」

「そうだね……それに暗くなってきてるし、ちゃちゃっと戸締まりをして帰ろうか。」

「うん……」


 私たちは図書室の戸締まりをし、鍵は職員室に返してから、昇降口に来た。


「うーん、結構降ってるね。」

「そうだねー、天気予報だとそろそろ晴れて良いと思うんだけど。」

「まー最近の天気予報は当たらないからね。」


 そう会話しつつ、私たちは靴を履き替え、傘を取り出すのだが、私はそこで思い出す。まだ、私たちは相合い傘をしたことがない……と。

 でも、お互いに傘を持ってきてしまっている。そんな状況で相合い傘なんて出来るのだろうか。 

 私が頭を悩ませていると、彼が私の方を見て、顔を赤らめながら言った。


「えっと、そのー、相合い傘する?」

「ふぇ?」


 彼の言葉に思わず変な声が出る。やばい、絶対顔が熱い。


「えっと、良いの?私、傘持ってきてるけど……」

「うん、その、俺もと相合い傘したいし……」

「~~~!!好き!!」


 私は思わず彼に抱きついた。そして、彼も私を抱きしめてくれる。

 本当に、あなたって人は……好き、大好き。

 そうして、私たちは抱きしめ合ったあと、同じ傘に入って帰った――



――そこで、私は目を覚ました。そうだ、学校から帰って、自室に入ってあの本を読んでから、ベッドに寝転がったんだっけ。

 そして、私は夢の内容を思い出す。

 懐かしい夢を見ていた。懐かしくて、楽しくて、戻りたい思い出……。

 ふと勉強机の方を見ると、そこにはあのとき愛しの彼と語り合った本が置いてある。

 私はベッドから降りて、勉強机に向かい、その本を撫でる。


「あなたは今、何をしているのかな。何を考えているのかな。…………どうして、どうして私の側に居ないのかな……」


 涙が私の頬を伝い、ポタポタと本に落ちる。


「会いたいよ……抱きしめてよ…………」


 私の呟きは誰にも聞かれることなく、消えていった。

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