第3話 初めての仕事

 「えっと、いっ一年二組の、お、大森勇おおもりいさむって、いっ言います!」


 ガチガチに緊張しながら、名乗っているのは、黒髪の若干童顔のフツメン男子……てか、俺と同じクラスか。まだ、顔と名前が一致しない。ちなみに現在、大森は俺と勝斗の間に座っており、俺たちは既に自己紹介を終えている。


「大森君だね!今日は恋愛相談に来たってことでいいのかな?」

「あっはい!合ってます!」

「やった!凛花ちゃん!二ヶ月ぶりのお客さんだよ!!」

「はいはい、落ち着いてね。それでどういう内容か教えてもらえるかな?」


 水野先輩が白河先輩を落ち着かせつつ聞くと、大森は顔を赤らめながら話し始めた。


「俺……一目惚れしたんです。」

「きゃー!一目惚れかー!」

「直美うるさい。それで、なんて子に一目惚れしたの?」

「えっと、誰にも言わないでほしいですけど……」

「もちろん!誰にも言わないよ!この部活のルールだし。」


 白河先輩がそう言うと俺たちも頷く。

 そう、この部活のルールの中に「相談内容を他者に言わない」というものがあるのだ。そもそもの話、勇気を出して話してくれるのに、それを面白おかしく言いふらすのは、NGなのは当たり前だと思う。

 俺たちが誰にも言わないとわかったのか、大森は一旦深呼吸をして、話し始めた。


「同じクラスの町田まちださんに一目惚れしたんです。」

「町田さん?えっと、鯉川君と木ノ下君は知ってる?」

「まー一応は、同じクラスですし。」

「確か眼鏡をかけたポニーテールの可愛い女子だったと思います。」


 あー、思い出した。緑がかった黒髪のポニーテールの眼鏡っ子で、確か名前は町田真乃まちだまのだったはず。授業中も先生からの質問にハキハキと答えていて優等生だなーっと思ったんだっけ。


「その……俺、受験のときに受験票を落としちゃって、それを彼女が拾ってくれたんです。そのときに好きになって……。」

「いいねー!若いねー!」

「私たちと一個しか変わらないでしょ!もう!」


 心なしか白河先輩だけじゃなく、水野先輩もイキイキとしている気がする。


「それで、同じクラスになって、その……これは告白するしかない!って思ったんです!だけど、なんて言えばいいのかわからなくて……」

「おー!そうだよね!運命の出会い……想いをぶつけないと!」

「私も良いと思う!よし!一緒に考えようか。」


 白河先輩と水野先輩がノリノリになっている。勝斗は……こいつ、ほとんど聞き流しているな。

 はぁ、とりあえず、この流れは良くない。


「ちょっと待ってね。大森は受験のときの一件以外で、町田と話したことはあるの?」


 俺の質問に大森は首を傾げながら答える。


「いや、無いけど。どうして?」

「はぁ、それじゃあ、告白してもほぼ百パーセント失敗するよ。」

「「「え?」」」


 俺の発言に勝斗以外の三人が反応し、白河先輩が発言する。


「でも、鯉川君、まずは想いを伝えないと何も始まらないよ?」

「そうですね。でもそれは何も告白である必要はないです。というより、告白することで悪化する可能性だってあります。」

「それはどういうことかな?」


 水野先輩が問う。


「簡単な話です。知らないわけではないけど話したこともない人から、いきなり告白された場合、人によっては戸惑い、距離を置こうとすることがあるからです。」

「え?そうなの?」

「はい、意識することで、ついつい避けちゃうって感じです。」

「でも、それって意識されているってことなら、良いことなんじゃないの?」

「確かに、意識されるようになること自体は良いことです。」

「それじゃあ――」


 俺は白河先輩の言葉を遮って話す。


「でも、それは相手から歩み寄ってもらうようにならないと、関係が進展しなくなります。つまり、場合によっては相手が避け続け、進展がないまま終わる可能性が大きくなるということです。」


 それに対して、大森が発言する。


「え、えっと、でも、それは俺がアピールし続ければいい話じゃ?」

「でもそれは、相手がお前のことをちゃんと見てくれた場合の話だよ?相手がお前のことを避けて、目を逸らすことになったら、お前がたとえ、いくらアピールしても不発に終わるんだよ?」

「で、でも――」

「そもそもの話、告白っていうのは、相手のことを好きであること、恋人として付き合ってほしいってことの二点をで伝えることが重要なんだよ。それなのに、告白の言葉を一緒に考えてほしいって言うやつに、告白する権利はないと俺は思うなー。」

「うぅ……」


 あっ、もしかして、言い過ぎた?大森が俯いて、何も言わなくなっちゃった。

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