第9話 過信

文化祭が無事に終わって、またあの展覧会に向けての作品づくりの時期になった。私はあの時から決めていたとおり、雁塔を書くことにした。もうここからは自分との戦いだった。1日をどれだけ書道に費やせるか。夏休みの部活は、普通は半日だったけど、昼食を持ってきて長いときで7時間、ずっと書いていた。もちろん辛かったよ。本当に。他の部員よりも多く時間を取り、上手くならないといけなかった。先生はきっと私に1番期待していた。そりゃそうだよね。こんなに全国行きたいオーラ出してる人がいて。しかもその人は1度全国規模で入賞している。別に鼻にかけているわけじゃないけど、どうしても期待してしまうよなあって思っちゃう。そんな墨汁の水圧が私を押しつぶしてくるかと思った。でもその分、私はものすごく燃えた。絶対行ってやるんだって、より技術に磨きをかけた。何回も書いて、書いて、書きまくった。書くごとに線質も良くなってきて、字形もだいぶ取れてきた。このあたりから、「私にしか書けない線」を目指すようになった。だって、上手いだけじゃただ上手いで終わっちゃうじゃん。私だけの線質で、私にしかだせない雁塔の魅力を引き出してやろうっていう気持ちで書いてた。だからといって7時間書いても、私の思い描くその線質にはなかなかすぐにたどり着けるものではなかった。見つけたいから書く。本当に気が狂ってたんじゃないかな。先生に「そろそろ帰りな」って何回言われたことか。なんだかんだ先生も仕事とかあったなかこうやって面倒を見てくれてた。だいぶ迷惑かけたかもしれない。別に悪いとは思ってないけど。先生も私への期待があったからね。そうして夏は終わり、なかなか1日かけての練習時間が取りづらくなってきた。生徒会と兼任してると平日は部活に行くことすらできなかったときもある。そんななかでも段々「私の線」がわかってきた。これだ。こう書くと楽しい!なんて思いながら割と悠々自適に筆を進めていた。締切が近くなると、だいぶ自分の字に自信を持てるようになってきた。1年生のときに比べたら本当に上手くなったと思う。その中で、よりプレッシャーも重く感じるようになって。怖かった。辛かった。でも、完成したときに悔いはなかった。私の書きたかった雁塔は完成した。書道に関しては自信家な傾向のある私は、そんな確証なんてどこにもないのはわかっていたけど、心のどこかで全国に行けると思っていた。

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