第7話 夢心地

展覧会が終わって、時は学年末考査の当日、友達とテスト範囲の問題を復習しあっていたところだ。後ろからいきなり肩を叩かれたと思い、振り返るとなんと顧問の先生がいた。え、なに。なんか忘れてたかな。若干怯えながら呼ばれるまま廊下に出ると、「公募展で賞を取ったからテストが終わったら書道室に来て欲しい」とのことだった。え、なんのやつだ。言うほど大したことはないだろう、そういや今日は迎えを呼んでいたから少し遅らせちゃうなーなんて呑気に考えてテストを受け、書道室に行った。私の書いた雁塔が賞に乗ったらしい。その賞の説明を受けたが、びっくりしすぎて、今でも鮮明に覚えている。その公募展というのが、なんと全国規模のものだった。そして、その表彰式に出席できるかという旨だった。しかも入賞することはできても、表彰式に呼ばれるのはそれなりに難しいらしく、約1万点の中の約130人に入ってしまったのだ。会場は東京。まじかよ。だから私は、1年生にして、目標であった全国大会出場を実質叶えてしまった。もちろん先生の前では平静を装っていたが、内心はもう早く家族だったり、とにかく誰かに伝えたくて仕方がなかった。それほどまでに嬉しかった。軽くテストの疲れなんて忘れられるほどだった。この後家族に伝えたとき、何を言ってんだ?みたいな雰囲気から、段々状況を理解して困惑が喜びに変わっていったのが目に見えてわかった。それはなんだか面白かったし、同時に改めて嬉しかった。こんなに喜んでもらえるなんて。なんなら全国の夢叶っちゃったし。でも私の行きたい全国大会はこれじゃなかったんだけどね。まあだとしても規模は全国!はいよかった!なーんて浮かれていたけどそれと同時に気が引き締まる思いでもあった。もうここまで来たらさ、行くしかないじゃん。全国。これからもっと頑張って、これをまぐれで終わらせないように。あの春先に行った武道館の空気を忘れないようにと、また書いた。なんてことは実はなく、このときに私は大きな勘違いをしていた。1年生でこんな賞を取っちゃうなんて、私には、もしかしたら才能があるんじゃないかってとんだ妄想を繰り広げていた、今になって振り返ると本当にふざけていたと思う。でも、正直、思っちゃってた。全国も、このまま書いていれば行けるのではないかって。そんな壮大過ぎる妄想を抱えて、春はどっちかっていうと書道以外の方に力を入れていたかな。書道に全てを捧げるってことはしないで、他の活動もちゃんとしようと思ってたから。久しぶりに書道から離れたこの日々も楽しかった。と同時に、書く古典が変わって、趙之謙のから「礼器碑」というものになった。書体も、楷書からいきなり隷書になったもんだからまあむずかしいよね。しかも、今までは半切でも半紙に書くみたいに机に座って書いてたけど床で書くことになって、最初冗談抜きで腰が痛くてしょうがなかった。ここにきて初めて床で書くとは。運動不足が原因か?いや、座っているだけだから関係ないのか。ってどうでもいいことを考えながらそれなりに書くことを楽しんでいた。慣れない隷書は難しかったけど、難しいなりに楽しかった。と同時に、私はある決意をした。それは、展覧会でもう1度雁塔を書くんだ、ってこと。この礼器碑を書いているときでもやっぱり雁塔を忘れてなかった。書いていた礼器碑は言っちゃえば雁塔と正反対で、大筆だったし、床で各作品だった。趙之謙も、楷書ではあるけれど書風も全然違うしこっちも大筆だったから余計書きづらく思えたってのもあるし、これまで賞を取ってきたのが全部雁塔だったから若干固執していたのもきっとある。でもそれよりも、私は雁塔を書いている時間が好きだった。今までのどの古典よりも好きだった。そのことに気づいてしまった。私って、どこまでいってもある意味一途で依存的なんだな。そんな私はまた心の内で密かに全国へのガスをつけていた。

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