第6話 浮気…

あの日から、私は全力だった。本気で全国を見据えていた。だからまた書いた、雁塔聖教序を。でもほんの少し、2、3枚他の公募展に出す用に書いただけ。これまでずっと書いていたおかげで、あのときの展覧会よりも上手く書けた。それらを公募に出して、それが入賞できたらラッキーだなあーって思ってた。そんなことを思ってたら、先生に呼ばれた。なんと、別の展覧会で入賞したから表彰式に出席してほしいという旨だった。これは、先日の展覧会の作品をそのまま持っていっただけのやつだった。しかし審査があったことは知らなくて、私はひたすらにびっくりした。それと同時にとても嬉しかった。私はまだ1年生で、他に入賞しているのは先輩と地域の大人の人だけだったから。それが私の書道部での初めての入賞だった。部活で1度はなにかの性を取りたいと思っていたからその願望をまず達成できたことは喜ばしいことだった。家族も喜んでくれたし。表彰式は緊張したけれど、なんていうか、背徳感みたいなのがあったな。あと本当に私の作品がっていう戸惑いも少々。初めての賞状は重みがあってつい写真まで撮ってしまったくらいだ。あのときの気持ちを今表すなら、夢でも見てたようだった。そして私はまた、これが全国への第一歩だと思って、でも油断だけはしないように書くことを続けた。次の展覧会は審査がなかったから少し安心して書けた。ここで私は一旦雁塔から離れた。今度は趙之謙の作品を臨書した。今までと違って大筆だったから慣れない。大きい文字はあんまり得意じゃないことがわかった。これは書く時間も短かったし、審査がないから、出来栄え的には納得はいっていなかったけど妥協点ってことにしといた。その時はまだ、ついこの前まで書いてたから雁塔が恋しいのだと思っていた。

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