第2話 桜の迷路

もう1年半前の話になる。桜が散りかけの春、下ろしたてのジャケットに袖を通し、ひだの仮止めの跡が残るスカートを履いて、私は未踏の地に足を踏み入れた。これからここに通うんだな、って、やっと実感が湧いてきた頃。私は目星をつけていた部活へ見学に行った。最初に行った場所が、書道室だった。そこで出会った先輩は優しくて、それでいて全国出場を決めていて、技術も素晴らしかった。全国レベルの書道ってものを間近で感じた。かっこいいって、素直に思った。その日はそれまでで、書道部いいなって思ってた。でも私に迷いが生じた。サッカー部のマネージャーにならないかっていう誘いを受けたからだ。当時気になってた人がサッカー部だったっていうのも、正直理由の1つにはなってる。そこで、サッカーマネの体験もやってみた。最初はほんとに怖くて、どう思われるかな、てなことばかり気にしてた。でも、目の前で必死になってボールを追いかけて、夢中になっている姿を見て、かっこいいって思った。頑張っている人を間近で応援できるなんて。さらにはそこで頑張る、気になってたあの人。その輝く顔を間近で見ていたいとも思っていた。どちらの体験にも何回か行った。たくさん迷った。私は1年の頃選択授業で書道を取っていたから、授業が終わる度に先生に書道部の勧誘も受けてて、本当に迷ってた。それから1ヶ月。この体験でけじめをつけようと思って行ったのは書道室だった。今度はちゃんと先生からの説明も聞いた。先生は、ずっと私のことを褒めてくれていた。「体験に来た人の中で1番上手かった」とか言ってくれてもいたっけ。言わばスカウトされていた。でも、私の心を大きく動かしたのは、その言葉ではなかった。今でも私の耳に残って、脳裏に焼き付いて、夙夜夢寐、一度たりとも忘れたことはない。それほどまでにすっかり心を動かされた私は、その日に書道部に入部することに決めた。サッカーマネは、気になってた人への好意はもうなくなってたし、それが理由ってわけじゃないんだけど、試合とか遠征とか多くてついていけるかって言われたらちょっと無理かもってこととか諸々あり諦めた。ここから私の部活人生は幕を開ける。

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