第11話 一緒に登校①
「陽真~! 朝だぞ~!」
二学期二日目、俺はいつも通りに陽真の部屋に入り、陽真を起こす。
すると、陽真はむくりと起き上がった。
「ふわあぁぁ……おはよう……」
「おう、おはよう」
陽真が両頬を叩き、眠気を飛ばす。
陽真は朝に強いから、起こす身としては、非常に助かる。 どこかの両親には見倣ってもらいたい。
「朝飯の準備は出来ているから、準備出来たら来なよ?」
「はーい」
陽真の返事を聞いてから、俺は部屋を出る。
ちなみに、両親は既に家を出ており、家には俺と陽真しかいない。 これもいつも通りである。
「「いただきます」」
やって来た陽真と一緒に朝御飯を食べる。
今日の内容は、焼き鮭と味噌汁、白ご飯だ。 一応、焼き鮭には千切りキャベツを添えている。
「あーそういえば、今日から彼女さんと一緒に登校するの?」
「……ん?」
陽真から質問が飛んできた。
ふーちゃんと一緒に登校? あれ? そういえば、約束していない……
「……や、約束していない……」
「……はぁ」
陽真が呆れたように溜め息をつく。
「昨日の夜とか誘える時間はあったのに……」
「え?」
「ん?」
昨日の夜? いや帰り道なら分かるが、何故昨日の夜? 夜だったら会えないじゃないか。
「もしかして、兄貴……連絡先交換してない?」
「――!?」
そうだ! 連絡先交換してない!
「わ、忘れてたあああああ!」
「はぁ……なんで恋人の連絡先も知らないんだよ……」
「う、うっかりしてました……」
「はぁ……しっかりしなよ? 愛想尽かされても知らないよ?」
「はい……」
修二たちにも「ポンコツ」って言われたし、しっかりしないと!
「しっかりと連絡先交換してくるんだよー? じゃあ、またあとで~」
「おう」
途中まで一緒に登校していた陽真と別れる。
ちなみに、中学校と高校だと、中学校のほうが家から近い。 そのため、俺の時間に合わせると、陽真が中学校に到着する時間はそれなりに早くなるのだが、陽真曰く、友達が来るまで勉強しているから大丈夫とのこと。
一人になった俺は、高校までの通学路を歩く。
普段なら、道中の駅で修二と紫音と合流することになっている。
さて、今日の目標はふーちゃんと連絡先を交換すること。
大丈夫! 俺なら出来る! ふーちゃんだって連絡先を交換したいって思っているはず! はず……だよね? うん、大丈夫。 きっと大丈夫……
あっ、ここ曲がるとふーちゃんの家だ……
そんなことを思いながら、足を止める。
俺は昨日、ふーちゃんを家まで送ったため、ふーちゃんの家の場所を知っている。
ふーちゃんと一緒に登校することになったら、ここで待ち合わせすることになるのかな。 いや、あんなに可愛いふーちゃんを一人で待たせたら、絶対にナンパに遭う。 俺が先に来ればいいだけの話だが、ふーちゃんがここに来るまでの道でナンパされる可能性だってある。 うん、一緒に登校することになったら、俺がふーちゃんの家まで迎えに行こう。 絶対それの方が良い。 うん。
立ち止まったまま、そんなことを考えていると――
「ゆ、ゆーくん! おはよ!」
「ふぇ!?」
いきなり、後ろから声をかけられ変な声が出た。
俺がバッと振り返ると、そこには、顔を赤くしたふーちゃんがいた。
「お、おはよう。 ふーちゃん」
挨拶をされたから、しっかり挨拶を返す。
でも、何故ふーちゃんがここに?
俺の登校時間は他の生徒に比べて、それなりに早い。 というのも、俺は美化委員に所属しており、仕事内容の中に、朝に花壇のお花たちに水をやるというものがあるため、早めに登校する必要があるのだ。
だから、ふーちゃんが、早い時間に登校している俺と合流することはないと思っていたのだが……
「えっと、ふーちゃんがなんでここに?」
「……居ちゃ、ダメなの?」
ふーちゃんが上目遣いで聞いてくる。 その表情は少し悲しそうで、俺は慌てて答える。
「いや、ダメってことじゃなくて、えーと、ほら! この時間だと、学校に着く時間、それなりに早くなるじゃん? だから、えーと――」
「ふふふ……」
「ふーちゃん?」
ふーちゃんが突然笑い出す。 俺はそれに少し戸惑ってしまう。
「ごめんね、少しイジワルしちゃって」
ふーちゃんが笑いを堪えながら、謝ってくる。
そうか、からかっていたのか。
俺はふーちゃんの頭をクシャクシャと撫でる。
「ゆ、ゆーくん!?」
「いいだろ、これくらいの仕返し」
「もう……」
ふーちゃんが口を尖らせるが、その表情はどこか嬉しそうだ。
俺は途中で撫でる速度を緩め、クシャクシャになった髪を直すように撫でる。
すると、ふーちゃんが少し不満そうにしながら口を開いた。
「むぅ、別に、ゆーくんにならクシャクシャにされてもいいのに」
「いや、女の子の髪は命って言うじゃん? まーだから、大切したいなーって」
「……ゆーくんがそう言うなら……」
俺はその後も、嬉しそうにしているふーちゃんを撫で続けた。
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