第10話 我が弟

「んで、その真偽はいかほどに?」


 昼食を終え、キッチンで洗い物をしている俺に、ソファで寛いでいる陽真が聞いてくる。 真偽とは、おそらくキスの件だろう。


「……」

「いや、黙って誤魔化そうとしても無駄だけど……」


 くっ、駄目か。 まだ、誤魔化しが効くと思ったのだが。


「……ご想像にお任せします」

「ふーん、相手の子は、紫音さん?」

「は? なんで紫音?」


 なぜここで紫音が出てくるんだ?


「んー、だってさ。 ずっと好きだった人とは会えてないだろうし、くっつくなら一番仲の良い紫音さんかな~って」

「あー、なるほどな」


 確かに紫音とは親友で、よく遊ぶ仲だし、陽真とも面識がある。 ふーちゃんと再会したことを知らない陽真なら、そう考えるのは当たり前か。


「それで、紫音さんなの?」

「いや、不正解。 相手はふーちゃんだよ」

「ふーちゃん? えっ? 兄貴が昔から言ってた人のこと?」


 陽真が目を見開き驚く。

 俺は洗い物を終え、陽真の隣に座る。


「うん、今日、転校してきたんだよ」

「それで、再会してすぐにキスしたの?」

「ぐふっ!」


 そ、そうだよな……再会初日にキスはやり過ぎだよな……


「そのうえ、何度も何度も……」

「うっ!」

「そして、それを多くの人に見られたと」

「ぐはっ!」


 そうだった、見られたんだ。 人々に見られたんだ……


「もう、俺、外歩けない……」

「……まー、うん。 ドンマ……ん? ちょっと待って」

「?」


 陽真が顎に手を当てながら黙る。 その視線は少し下を向いている。

 どうしたのかと俺が首をかしげていると、数秒後、陽真が口を開いた。


「ねぇ、その……キスしたんだよね? その子と」

「う、うん」

「それって、つまりさ、その……付き合い始めたってことだよね?」

「うん。 付き合うことになったよ」


 また陽真が黙る。 ただその視線は、先程とは違い少し上を向いている。

 また数秒経って陽真が口を開いた。


「そっか……兄貴の恋が実ったんだね」


 陽真が優しそうな目をして俺を見る。


「おめでとう、兄貴」

「――っ!」

「いつも頑張ってたもんね。 良かったよ、再会することが出来て……今度、紹介してね」

「~~~~~っ! 陽真~~~!」

「げっ! そうやってすぐ抱きつくのやめろおおお!」


 嬉しいあまり、抱きつく俺VS少し嬉しそうにしつつも全力で抵抗する陽真の戦いが始まった。



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