第9話 キ、キスしちゃった……

 あれから、ふーちゃんを家まで送った。

 ふーちゃんを家まで送るまでの間、俺たちの間に会話はほとんどなかった。

 それは、別に気まずくなったとかではなく、ただ純粋に恥ずかしくて、顔を見ることが出来なかったからだ。


 そして、家に帰ってきた俺は、自室のベッドにうつ伏せになり、悶え苦しんでいた。


「うわああああ! キ、キスしちゃったああああ!」


 そう、俺はふーちゃんとキスをした。

 キスをしたとき、すごく幸せな気持ちになった。 唇を放したときの、顔を赤くしつつ、少し物足りなさそうなふーちゃんを見て、俺はもう一度唇を重ねた。 それから、何度も俺たちは唇を重ねた。 これが室内だったら、押し倒していたかもしれない。 だから、これが外で良かった思った。

 ふーちゃんとキスを出来て良かった。


 なら、なぜこんなに、悶え苦しんでいるのかというと……俺たちがキスをした場所は外だった。 そう、外なのだ。

 俺たちが気づいたときには遅かった。 周りを見渡すと、通行人たちが俺たちを見ていた。 恨めしそうに見ている男性や子どもの目を手で押さえる主婦、顔を赤くしている女子中学生たち……多くの人々に見られた。 キスをしているところを多くの人々に見られてしまったのだ! それも何度も何度もキスをしているところをだ!


「うわああああ! 俺はなんて姿を人様にいいいいいい!」

「うるせえ!」


 俺が叫んでいると自室の扉が開き、一人の男子が入ってきた。


「やっと帰ってきたと思ったら、なに叫んでるんだよ……」


 小柄な背丈で、赤みがかった茶髪、顔は少し幼さを感じるがそれでもイケメンの部類に入るであろう男子――俺の二個下の弟、上山陽真うえやまようまが呆れたかのように呟く。 ちなみに、陽真の瞳は、俺の赤とは違って、青い。


「……なんでもない」

「ふーん、まーいーや」


 キスのことを言えるわけもないので、適当に答えると、陽真は興味を失くしたのか追及してこなかった。


「で、俺お腹空いたんだけど」

「えっ?」


 俺は壁に掛けてある時計を見る。 十二時四十分……


「やべっ! すぐに用意するわ!」

「いや、ゆっくりでいいよ。 ケガされても困るし」


 俺は自室を飛び出して、キッチンに向かう。 キッチンに置いてあるエプロンを着て、すぐに調理を始める。

 俺たちの両親は共働きであり、基本、朝昼晩の食事は俺が用意している。 一応、陽真も料理は出来るのだが、自分磨きの一環として食事の用意は俺がするようにしている。





「あー、そうだ」

「ん?」


 作ったカルボナーラを陽真と食べていると、陽真が口を開いた。


「兄貴が叫んでた理由って、女の子とキスしたから?」

「ぐほっ、げほげほ」


 陽真からの爆弾発言に思わず、むせてしまう。 俺はオレンジジュースを喉に流し込み、落ち着かせる。


「い、いいいいい一体、なんのことかな?」

「慌てすぎ、はあ……俺の友達が、兄貴がめっちゃ可愛い子とキスしてたって連絡してきたんだよ」

「なん、だと……」


 それって、つまり陽真の友達にも見られていたってこと!?

 陽真が冷めた目をしながら、呟く。


「それも、何度も何度もしてたってさ」

「うわああああ!」


 恥ずかしさが限界突破した。


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