第6話 指摘

 現在、俺は下校していた。


 ちなみに、あのあと、クラスメートたちから祝福を受けていると、戻ってきた担任の風祭先生に「騒ぎすぎだお前ら! とっとと座れ!」って怒られた。

 あと、どうやらふーちゃんもクラスの女子たちから祝福されたらしい。 ふーちゃんが新しいクラスに馴染めそうで良かった。


 俺は横をちらっと見る。

 そこには、ふーちゃんがいた。 ふーちゃんの表情は、誰が見てもわかるくらい緩みきっている。

 それは、俺も人のことを言えないのだが……


 だってさ、ずっと好きだった人と再会できて、こうして一緒に帰れるとは思わないじゃん? 俺の予想だと、大人になってから再会するのではないかと思ってたんだよ? それも、手を繋げてるんだよ、それも恋人繋ぎ! もう、やばい、めっちゃドキドキする。 あれ? 女の子の手ってこんなに小さくてスベスベで柔らかかったっけ? 始業式に行くときも繋いだけど、あのときは急いでいた感触を楽しむ余裕はなかった! いや、感触を楽しむってなんだよ俺! キモすぎるだろ!


 俺が頭の中で色々考えていると、俺の視線に気づいたのか、ふーちゃんがこちらを見た。


「どうしたのゆーくん?」

「いや、えっと……」


 大好きなふーちゃんと手を繋げて嬉しい、なんて恥ずかしくて言えない。

 いや、こういうのは素直に言うべきなのでは? よく読むラノベでも、変にカッコつけていたキャラが恋人にフラれて、「あのとき素直に寂しいって言っとけば良かったのかな」って言っていたじゃん! うん! 言おう!


「――ふーちゃんと手を繋いで、一緒に下校できて嬉しいな、って思ってた」

「――っ!!」


 ふーちゃんの顔が茹でダコのように赤くなる。 そして、少し上目遣いになりながら、口を開いた。


「そ、その、私、も、ゆーくんと手を繋げて、一緒に帰れて、嬉しい」

「!!」


 えっ? なにこの可愛い生物は……? 天使なのか?


「……ふーちゃん、可愛すぎ」

「~~~っ!!?」


 ふーちゃんがアワアワと慌て出した。 その目は、俺から視線を外したと思ったら、戻ってきたりと行ったり来たりしている。 すごく可愛い。


「……ふーちゃん大好き」

「~~~っ!!? 私もゆーくんのことが大好き!」


 ふーちゃんが俺に抱きついてくる。 俺もふーちゃんを受けとめ、抱きしめ返す。


「もう! 好き! 大好きだよゆーくん!」

「俺も大好きだよふーちゃん」

「「バカップルかよ」」

「「!!?」」


 いきなり、後ろからの声に俺たちはバッと振り向く。

 そこには、修二と紫音がいた。


「な、なんで二人がここに?」

「いや、普通に通学路だし、それにいつも一緒に帰ってるでしょ」


 紫音が呆れたように答える。

 そうだった、同じ中学なのだから、通学路も同じだった!


「なー、こいつポンコツになってない?」

「そうねー、愛しの文花ちゃんと再会できて浮かれているんだねー」

「ぐぬぬ……」


 二人に図星を突かれて、何も言い返せないでいると、抱きしめていたふーちゃんが、トントンと頭を俺の胸にぶつけてきた。


「どうしたの、ふーちゃん?」

「いつも一緒に帰ってるって、二人とはどういう関係?」


 少しムスっとした顔でふーちゃんが聞いてくる。

 「二人」とは修二と紫音のことを指しているのだろうが、この様子だと、紫音のことを気にしているのだろう。

 俺はふーちゃんが嫉妬していることに、少し喜びを感じつつ、答える。


「二人は中学からの俺の親友だよ」

「そうなの?」

「うん」


 そう、修二もそうだが、紫音も俺の親友だ。 中学一年生のとき、クラスは違ったが林間学校で関わることがあり、それ以来交流が続いている。 多分、ふーちゃんを除けば、一番仲の良い女子だと思う。


「って、紫音から色々聞いていると思ってたんだけど」

「あー、ついつい教えるの忘れてた。 てへ」


 紫音が下を少し出しながら答える。 これが修二だったら殴っていたかもしれない。


「あれ? なんか俺、殴られる?」

「んなわけないだろ」

「だよねー! 良かった良かった」


 修二がケラケラと笑う。 こいつ、俺の心を読んでいるのか?


 すると、俺たちのやり取りを見ていたふーちゃんが、安心したかのように笑う。 可愛い。


「良かった~。 親友なら安心だね」

「うん」

「よし! じゃあ、帰ったら早速、婚姻届出しに行こうね!」

「そうだね」

「「まてまてまて!!」」


 む。 何故か二人が止めてくる。


「どうした二人とも?」

「いや、何ナチュナルに婚姻届を出そうとしているんだよ……」

「え、再会したら結婚するっていう約束なんだから、結婚するために婚姻届を出すのは当たり前じゃ」


 俺の考えに同意のようで、ふーちゃんもコクコクと頷いている。

 俺たちの様子を見て、修二も紫音も溜め息をつく。


「いや、二人とも……結婚できる年齢じゃないじゃん」

「「――え?」」

「この国の法律上、18歳にならないと結婚できないでしょ」


「「そ、そうだった~~~!!」」



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