第5話 クラスメート② ※文花視点

 二学期の始業式が終わり、私は教室に戻った。

 戻るまでの間、自分でも分かるくらいに頬がゆるんでいた気がする。

 でも、しょうがないと思う。 だって、予想よりも早くゆーくんと再会できた上に、ゆーくんがちゃんと約束を覚えててくれていたし、それに、結婚しようって……。 こんなの嬉しすぎて、ここが学校じゃなかったら「やったー!」って叫んでいると思う。

 それにそれに、未遂に終わったけど、キスしそうになっちゃったし、ゆーくんが手を繋いでくれたし……あれ? もしかして夢だったりする? いや、頬をつねって見たけど、しっかり痛い。 うん、現実だ。 もう、やばいどうしよう、好きが溢れちゃう。 ゆーくんに抱きつきたい。


 そんなことを考えて、教室に戻ってきたのだが――


「ねぇ、夢前さん! 上山君とどんな関係なの!?」

「上山君が前から言っていた好きな人ってあなたなの!?」

「夢前さんは上山君の何なの!?」


 私はクラスの女子たちに囲まれてしまった。

 突然のことに私が慌てていると――


「はいはい、みんな落ち着いて。 夢前さんが妬ましいのはわかるけど、夢前さんが困っているでしょ?」


 そう言ってくれたのは、薄い紫のショートヘアーの女子だった。 身長は小柄な私よりも少し高くて、胸は……。


「ん? なんかすっごく失礼なこと考えなかった、夢前さん?」

「ひっ! い、いえ! そんなことはありません!」

「そう? なら良いけど」


 こわ。 目も口も笑っているのに、なんかオーラが黒くて、圧が強かった。


「で、夢前さんは優真とどういう関係なのかな?」


 紫髪の女子が質問してくる。

 周りの女子たちも興味津々と言わんばかりの眼差しを向けてくる。 その目には嫉妬も含まれている気がする。

 てか、優真!? えっ? 呼び捨て!? はっ、一旦落ち着かないと……


「――ゆーくんは私の大好きな人で、小学生のときに結婚の約束をした幼馴染みです」


 心を落ち着かせてから、私は質問に答える。


「そっかー……やっぱり、優真の言っていた子は夢前さんだったかー。 てか、みんな嫉妬しすぎ。 少しは抑えて」


 紫髪の女子が周りに言う。 すると、痛い視線が和らいだ気がした。

 紫髪の女子が私に近づいて、耳元で囁いた。


「ごめんね夢前さん。 気づいていると思うけど、優真ってかなりモテるんだよね」

「そ、そうなんだ」


 薄々気づいていた。 高校生になった優真は、すごくイケメンになっているし、身長は男子の中では高い。 小学生の頃から性格が変わってないのなら、モテるのは納得しかない。 それに、ここまで露骨に嫉妬の眼差しを向けられたら、気づかないほうが難しい。


「あっ、名乗るの忘れてた!」


 紫髪の女子が思い出したかのような声をあげた。


「私の名前は、森園紫音もりぞのしおん。 よろしくね、夢前さん」

「はい。 よろしくお願いします、森園さん」

「もう、敬語じゃなくていいよ? あっ、そうだ。 文花ちゃんって呼んでもいい?」

「う、うん。 じゃあ、私も紫音ちゃんって呼んでいい?」

「うん! いいよ!」


 紫髪の女子――紫音ちゃんが笑う。 その笑顔は、同じ女子の私でもドキッっとするくらい可愛いかった。

 紫音ちゃんの笑顔に見とれていると、横から声をかけれた。


「私は夢前さんと上山君のこと応援するよ!」


 そう言ってくれたのは、ピンクの髪を白のシュシュで左側にサイドテールにした女子だった。


「えっと、ありがとう?」

「うん! あっ、私は神崎桃かんざきもも! よろしくね、夢前さん! そうだ! 私も文花ちゃんって呼んでもいい?」

「う、うん。 じゃあ、私も桃ちゃんって呼ぶね」

「うん!」


 桃ちゃんが満面の笑みを浮かべる。 可愛い。

 すると、紫音ちゃんが口を開いた。


「えっと、結構あさっりと応援することにしたんだね、桃」

「うん! だってねー。 あんなに嬉しそうにしている上山君は初めて見たし、これは勝てないなーって」


 え? それってまるで、桃ちゃんがゆーくんを狙ってたみたいな……


「えーと、桃ちゃんて……」

「うん、私も上山君のことが好きだよ?」

「ふぇ!?」

「でも、二人のやり取りを見ていたら、どれだけ想い合っているのかわかったし、上山君に好きな人がいるのは知ってたし。 まー、だから、ちゃんと嫉妬はするけど、邪魔をするつもりはないし、むしろ応援するつもり!」

「――!」

「それに、私……告白してフラれてるし……」

「え!?」


 桃ちゃん良い子! て、思っていたら、いきなりの爆弾投下。


「あー、気にしないで。 上山君に告白してフラれた女子、結構多いし」

「いや、気にするよ!? え、そんなにゆーくんモテてるの!?」


 ゆーくんがモテているのは分かっていたけど、予想よりもモテていたらしい。

 私の質問に、桃ちゃんではなく、紫音ちゃんが答える。


「まーね。 優真って基本的に誰にでも優しいし、困っている人がいたら率先して助けにいくし、テストだと今のところ総合計でも全教科でも学年一位だし、スポーツも万能だし、それに顔をイケメンだし……モテないほうがおかしいよね」


 紫音ちゃんから返答に私は耳を疑う。 ゆーくんが学年一位? 小学生のとき、あんなに勉強嫌いだったゆーくんが学年一位!? ゆーくんってハイスペック!?

 私が驚きのあまり固まっていると、桃ちゃんが口を開いた。


「ちなみに、上山君が勉強も運動も頑張っているのは、好きな子の隣を胸を張って歩けるようにするためって言っていたよ」

「――え?」


 それって、私のことだよね。 そんなに私のこと好きなんだ~。 嬉しい。


「えへへ」


「やば、めっちゃ可愛い。 これは推すしかないのでは」

「まさに守りたいこの笑顔」

「天使じゃん」


 ハッ! 思わず頬が緩んでしまった。

 私が緩んだ頬を戻していると、桃ちゃんが話を続ける。


「まー、話を戻して、私は二人のこと応援するよ! みんなもそうだよね?」


 桃ちゃんが周りに問いかける。


「そうだねー。 あんなにラブラブな二人の邪魔をするつもりにはなれないねー」

「嫉妬はするけどね。 あれを見たら諦めるしかないよね」

「むしろ、推しカプになっちゃった!」

「あああ! 天使! この笑顔は守らなくては!」


 みんな、大なり小なり私とゆーくんのことを応援してくれるようで、反対意見は出てこない。 多分、この中にはゆーくんに恋をしている人もいると思う。 でも、私たちのことを応援すると言ってくれている。

 だから、私は応援してくれるみんなに感謝する。


「――っ! ありがとうみんな!」


「うっ、なんて破壊力っ!」

「――我が生涯に一片の悔いなし」

「かわわわわわ!」

「――恋しちゃう!」


 えっと……このクラス、面白いね……うん

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