第1話 再会
「私……
高校一年の二学期初日の朝、校舎裏で俺――
だけど、俺は――
「ごめん! 俺、好きな人がいるんだ。 だから、キミとは付き合えない。」
俺は頭を下げて、その告白を断った。
「そっか……わかった。 ごめんね。 時間を取って……」
その子は、そう言い立ち去っていった。 その目には涙を浮かべていた――
俺が教室に戻り、自分の席に座ると一人の男子が話しかけてきた。
「よっ優真!」
こいつは、
「よっ修二」
「それでそれで、今回の告白はどうだった?」
修二がニヤニヤしながら、そう聞いてくる。
「……なんでお前が知っているんだよ。 誰にも言ってないはずなんだけど」
「いやー、隣のクラスで
「あー、そうですか……」
ちなみに下北さんというのは、先ほど俺が振った女子である。
やっぱり、泣かせてしまったか。 罪悪感がすごい。
「で、なんで断ったんだよ? 下北さん良物件だと思うんだけど」
「ん? 前から言ってるだろ。 俺は他に好きな人がいるんだよ」
修二が額に手を当てながら、溜め息をつく。
「はぁ……あれか、小学生のときに結婚の約束をしたっていう女の子ことか?」
「そうだよ。」
そう、俺は小学生のときに仲の良かった女の子と結婚の約束をした。 その子は引っ越してしまい、今では連絡も取れていないが、それでも俺はあの子のことが好きなのだ。
「お前なー……普通、再会できるかわからない子との約束を覚えているか……?」
「でも……絶対結婚するって約束したし」
「いや、相手も忘れてるって」
「それで、もし覚えてたらどうするんだよ?」
「そもそも、再会できるかわからないんだろ」
くっ、その通りだ。 名前は覚えているのだが、あの子の家はいわゆる転勤族というものであり、各地を転々としているらしく、今ではどこに住んでいるのかも知らない。
「一途なのは良いことだけど、良い女を逃しまくって後悔だけはするなよ?」
「……わかってるよ。 でも、好きなんだから仕方ないだろ」
「はいはい。 中学のときからモテているってのに……女の子たちは辛いだろうね」
「うっせー……」
自慢ではないが、確かに俺はモテるのだが、告白されても毎回断っているので、泣かせてしまうことも多い。 正直、断る側も辛い。
それでも「他に好きな人がいるのだから仕方がないだろう」と俺が思っていると、修二が何かを思い出したかのように口を開いた。
「あっ、そういえば、今日転校生がくるんだってよ」
「へぇー」
「んだよ。 興味無さげだな。 ちなみに、めっちゃ可愛い女子らしい」
「ふーん」
「少しは興味を持てよ……」
いや、正直一人の男子高校生として興味はある。 だが、それでもあの子以外に振り向く気がないだけなのだ。
そんなことを考えていると、朝のHRを告げるチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってきた。
「よーし、お前ら席に着けー」
先生の言葉に、みんなが席に着き始める。
「じゃあ、また後で」
そう言うと、修二も自分の席に向かった。
クラス全員が席に着いたのを確認すると先生がHRを開始した。
「今日から二学期がスタートで、この後、始業式があるのだが、その前に転校生を紹介する」
教室内がザワザワと騒がしくなる。
「よーし、入ってきていいぞー」
先生がそう言うと「ガラガラ」と教室のドアが開き、クラス全員の目線がドアに向く。
入ってきたのは、一人の女子だった。 少し小柄ではあるが、出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込むという女子の理想のような体型をしている。 その髪は、綺麗な黒色のロングヘアーであり、見ているだけ分かるほどさらさらとした髪をしている。 その顔は、「ザ・美少女」と言えるほどであり、ぱっちりとした二重の目には髪と同じく綺麗な黒色の瞳が収まっている。
あまりの美少女にクラスの男子たちが喜びの声をあげる。
だが、俺は文字通り固まっていた。 何故なら、その顔に見覚えがあったからだ。
「えー、今日から一緒に学校生活を送ってもらう、
「はい。 本日からこの学校に転校してきた、夢前文花と言います。 小学生の頃にこの付近に住んでいましたが、家が転勤族なこともあり各地を転々として、最近になって帰ってきました。 皆さんと仲良くできたらな、と思います。 よろしくお願いします」
美少女が自己紹介をし、お辞儀をする。 それにクラスで拍手が起こる。
だが、俺は先ほどから固まったままであり、その目線は美少女から外せない。
「夢前文花」という名前を聞き、俺の中で疑惑が確信に変わる。
俺は思わず立ち上がった。
クラス中の視線が俺に集まるが、俺はそんなことを気にせず、夢前文花を見つめる。
突然のことで首を傾げていたその子だったが、俺を見て何かに気づいたのか目を見開き、呟いた。
「もしかして、ゆーくん……?」
その呟きに俺は答える。
「うん、そうだよ。 ふーちゃん」
ふーちゃんが駆け寄ってきて俺に抱きついた。 その目からは涙がポロポロとこぼれている。
俺はふーちゃんを抱き留め、優しく、それでも強く抱きしめた。
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