第16話 旅行へ!

 ゴールデンウィーク前半、吾郎は自分の旅行資金を稼ぐため、日雇いの建築現場で働いていた。

 偶然にも父親が懇意にしていた建築屋のバイト募集のチラシを見つけたのだ。


その建築屋の社長は、吾郎の父親の葬儀にも来てくれた人だった。

彼は父親のことを思い出しながら電話をかけて応募した。

すると、社長は彼の声を聞いてすぐに不幸があって急に休んだ人の穴埋めとして、明日から3日間だけ現場で働いてくれないかと頼んできたので、吾郎は迷わずに承諾した。彼は学校で学んでいる建築の理論を、現実の現場で目にすることに興奮した。教科書やモデルでしか見たことのなかった建築の構造やデザインが目の前で作り上げられていくのだ。

 それも自らが参加してだ。


 これはなんとも貴重な機会だと、吾郎は心の中で思った。

 吾郎は時に現場の人たちに質問をしたり、アドバイスをもらったりして、建築の知識を深めることに励んだ。

 彼らは吾郎の好奇心や熱意、真面目な仕事振りに応えてくれた。


 早朝から現場に向かい、様々な作業に挑戦する日々。

 肉体労働はきつくて筋肉痛に悩まされたが、元ボクサーだったから見た目より体力も腕力もあった。

 現場の人たちは、その働きぶりに驚いていた。

 絶対こいつには持てない!と思われる重い荷物を軽々と運んだり、安全帯を装着して高いところに登ったりと、文句をいわず危険な作業を引き受けたりして、現場の人たちの手助けになった。

 やはり最初は高いところの作業は泣きついてくると思っていたのに、何故か安全帯の使い方を知っていて驚いていた。

 これも父親の手伝いの賜物だが、もちろん作業は初めてだった。


 吾郎も彼らの仕事ぶりに感心していた。彼らは昼夜を問わず働き続け、汗と泥にまみれて鉄やコンクリートを扱い何かを作り上げる。


 それは、吾郎にとっては想像もつかないほどの労力と技術が必要なことだった。でも、彼は憧れを感じた。


 自分もいつか彼らと同じように、手間と時間をかけて自分の作品を作り上げてみたいと。 

 また、現場の人たちと仲良くなり、短い期間ながら彼らから「兄ちゃん」と呼ばれるようになっていた。

 彼らは吾郎の事を見た目と違い力があるなと言って、根性のある吾郎を気に入ってくれた。


 吾郎も彼らのことを尊敬し、彼らの話を聞いたり、冗談を言ったりして、和やかな雰囲気を作った。

 また、弁当ではかなりいぢられた。

 瞳と楓がお弁当を作ってくれたのだが、愛妻弁当だと言われ、どんな彼女だと休み時間に根掘り葉掘り聞かれていた。


 社長も吾郎のことを気にかけてくれており、少し大くお金を払ってくれた。

 吾郎は社長に感謝し、父親のことを話した。

 社長は吾郎の父親のことを懐かしく思い出し、色々な話をしてくれた。

 社長から父親のことや建築のことを学ぶことができた。


 現場で働く日々が終わったとき、吾郎は自分の手を見つめた。

 そこには自分の旅行費用を稼いだ証としての汚れやすり傷だけでなく、現場の経験と職人たちへの深い尊敬の念が刻まれていた。

 これらは彼の旅行に更なる深みをもたらし、楓や瞳とともに訪れる建築物をより深く理解するための新しい視点を提供した。

 周りの人々の配慮に感謝しつつ、旅行の準備をした。


 そして2日間大学に行った後、ゴールデンウィーク後半が始まる。

 吾郎、楓、瞳は3人一緒に、まだ見ぬ建築物やその歴史に触れる旅に心をときめかせながら出発した。





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