第15話 旅の準備

 販売店の過失によりアルコール入り飲料をノンアルコールとして販売され、それによりお酒とは知らずにかなりの量を飲んでしまって酔った勢いで関係を持ってしまい・・・3人の関係は一夜にして変わった。


 記憶のない夜、一線を越えた朝を迎えた日以来、3人の空気は一変した。


 あの一夜の過ち、初体験以降、そのことについて話す事を避け続けてきた3人だった。(実際は過ちはまだ起こっていない)


 恥ずかしさもあり、その後肌を重ねることはなく、過去の出来事が彼らの間に微妙な空気を溢れさせた。



 それでもなお、3人はいつも通り仲良く過ごしていた。まるでそんな事がなかったかのように…

 楓と瞳は日々、吾郎への愛着を深めていた。

 彼女の心は、彼女を中心に展開する彼らの日常の中で育まれていき、吾郎が淹れる朝のコーヒー、瞳が選ぶ夜の一冊が彼女の生活に取り込まれていった。

 人生で唯一の相手、すなわち初めてを捧げた相手である吾郎との関係をきちんと築き上げたかったからだ。

 本当ならきちんとお付き合いし、愛を深め、その結果として肌を重ねたかった。

 それがいきなり体の関係を持ってしまい、頭の中がぐちゃくちゃだったのだ。


 そして、風呂上がりの楓と瞳が吾郎の部屋に集まると、彼らの会話は日本各地の絶景に及んだ。

 瞳と楓はパジャマをまとい、吾郎はカジュアルな衣装で迎え、そのまま朝を向かえるわけではなく、己の部屋で1人で寝ていた。


 しかし、3人が集まっているその瞬間は、まるで魔法にかけられた特別な空間となり、創造的なエネルギーに満ち溢れていた。


 新たな一日が始まると、吾郎の淹れるコーヒーの香りが部屋中に広がり、2人は当たり前のように朝食を持ち寄り一緒に食べる。そうして3人での新たな一日を迎える。


 新しい朝が訪れるその瞬間は、まるで彼ら3人が新たな冒険の旅に出るかのようだった。


 この繊細で美しい日常が続く中で、彼らの間の絆は深まり、新たな期待感を生み出し、彼らは避けられない新しい事態に進んでいた。


 それは、彼らの間に芽生えた深い友情と、すでに一つになったその場所、そして彼らが一度だけ経験したその感覚への切なさと暖かさに満ちていた。

 それでも、3人は相変わらず一緒に過ごしていた。


 彼らは1度だけだが、肌を重ねたことによる恥じらいから、ややぎこちなく接し、再び肌を重ねることはなかった。


 今現在は、3人が付き合い出した恋人同士のように接している。

 楓と瞳が吾郎を共有しているという、不思議な状況の下、それがなんとなく心地良い。


 関係が壊れることを恐れ、あの晩のことを誰も口にせず、吾郎も2人に対してもう1度床を共にする事を求めなかった。


 ゴールデンウィークが近づいたとき、3人はテーブルを囲んで旅行の計画を立てた。

 デザインや建築についての学校の課題として、有名な建築物を見に行くことになった。

 基本的に県外の建築物に対する考察をレポートにする、訪問したメンバーがそこに写っている写真を伴わなければならない。


「予算範囲内で、特急電車を使わずに、できるだけ節約して移動しよう。それにどの建築物を見に行こうか?候補を決めなきゃね」


 吾郎が提案し、楓と瞳も了承した。

 言葉に出さなかったが、日帰りか泊まり掛けで行くかも決めねばならなかった。


 地図とガイドブックを開き、楓が告げた。


「見てみたい建築物のリストがあるの。名古屋城や倉敷美観地区など……でも、名古屋城は県内よね」


 指でその場所を示した。

 一方の瞳はスマートフォンをいじりながらだ。


「私たちは主に近代の建築を学んでいるから、国立新美術館やMIHO MUSEUMもいいのではないかしら?」


 そう提案した。


 他にも幾つか意見が出、吾郎は皆の提案をまとめた。


「全てを見られるわけではないかもしれないが、できる限り多くの建築物を見て、特性を吸収しよう。それに、一緒に旅をするのは新鮮で楽しいだろ?」


 泊まり掛けの旅を提案すると、塞ぎがちだった2人の顔に笑顔が戻った。


 そうと決まれば3人は旅行の準備に注力し始めた。

 行き先の選定、鈍行列車でのの乗り換えの計画、そして予算内での過ごし方。

 3人は念入りに計画を進めていた。

 誰が何を準備するかや、宿の手配だ。

 因みにカメラは建築用の煽りレンズを装着したカメラを持っている。

 正確には父親が仕事で使っていた遺品のひとつだ。

 時折助手としてお小遣いを貰ってカメラで指示された建築物を撮っていたのだ。

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