第8話 方向性を決めよう!

 吾郎、瞳、そして楓は、グループ課題のために吾郎の部屋に集まっていたが、部屋は書類でごちゃごちゃだった。

 それは課題の【お嬢様学校の体育館新築の提案】について、グループで取り組む素案を決めようとしていたからだ。


「それじゃあ、みんなのデザイン素案を検討しようか」


 吾郎が言い、パソコンの前に3人が座っていた。


 最初に発表したのは吾郎だった。

 吾郎は自己流の設計図をひとりで描き上げ、ちょっと中二病っぽいデザインの提案を行った。体育館の屋根にでかいドームを設け、その中には星空を模したライトがいっぱいあった。それにドームの下には回転式のステージがあり、そこでいろんなイベントが開催できるようになっていた。


「これは、お嬢様学校の体育館というより、夢のパレスね」


瞳が笑った。


「吾郎?君はどんなコンセプトでこのデザインを考えたの?これじゃ中二病じゃないの!」


 楓は手厳しい。


「ええと、俺はお嬢様学校というと、キラキラしててロマンチックなイメージがあって、それを表現したかったんだ」


吾郎が答えたが、続きを促された。


「ドームの中には星空の下でダンスをしたり音楽を聴いたり、恋をしたりするような場所があるといいなと思って、そういうデザインにしたんだ」


「なるほど、吾郎ってやっぱり男の子ね!」


 楓がひとこと言って3人の笑いを誘ったが、吾郎は顔を赤くして言い訳を始めた。


 次に発表したのは瞳だった。瞳はできるだけ保守的なデザインを心がけたけど、提案したデザインの構造計算に問題があった。体育館の壁にたくさんの窓を設け、自然光を取り入れるというものだった。しかし窓の数が多すぎて、壁の強度が足りなかった。それに、窓の形もバラバラで、断熱性や防音性にも欠けていた。


「瞳、君のデザインは自然光を取り入れるという点ではいいと思うけど、窓の数や形については、もうちょっと考え直した方がいいかな?」


「窓が多すぎると壁の強度が下がって地震に弱くなるし、窓の形がバラバラだと、断熱性や防音性にも影響が出るよ。お嬢様学校の体育館は安全で快適な空間であるべきだよ。でもちゃんと計算すれば良い方向に行くかな」


 楓と吾郎の評価だった。


「あっ!構造計算をしていなかったわ!」


 瞳はデザインを考えるのが手一杯で、構造に気が回らなかった。


 最後に発表したのは楓だった。

 まだ少し無理があるが女性受けする感じで、即採用となった。


 そこで、方向性を定めようと討論が行われたが、楓はこれまでの議論を踏まえた上で、柱の位置をずらし、大きな窓を設けるという新たな挑戦を提案した。

 その設計は採光を劇的に改善して女性の心をくすぐる一方で、実現可能性も考慮に入れていた。体育館の壁に沿って、3角形の窓が並んでいた。その窓は太陽の位置に応じて、色や形を変えることができた。それに柱の位置をずらすことで、体育館の全体に開放的な採光を確保し、いろんなスポーツやイベントに対応できるようになっていた。


「これはすごいね、流石楓だ」


 吾郎が感嘆した。


「君のデザインは、お嬢様学校の体育館にぴったりのキラキラ感と機能性を兼ね備えている。窓の色や形を変えるというアイデアはものすごく斬新だし、柱の位置をずらすという工夫は、空間の有効利用につながる。君はどうやってこのデザインを思いついたんだ?」


「ありがとう」


楓は笑った。


「私はお嬢様学校の体育館というと、明るくて楽しい雰囲気があって、それを表現したかったんだ。窓の色や形を変えるというアイデアは、お嬢様たちのドレスのように、季節や気分に合わせて変化するものがあるといいなと思って、そういうデザインにしたんだよ!柱の位置をずらすという工夫は、さっきの瞳の案を見て閃いたの!私1人だと思い付かなかったかな」


「なるほど、楓はよく考えているよね。私の失敗を取り入れるなんてすごいわね!」


 瞳がほめ、吾郎がまとめた。


「楓のデザインはお嬢様学校の体育館の新しい可能性を示している。柱をずらすのを採用しよう」


「え、本当?ありがとう」


「いや、こちらこそありがとう。楓のデザインは俺たちの誇りだよ」


 こうして3人のデザインの方向性を決まった。


 17時を過ぎても3人は新たな設計に没頭していたが、吾郎のお腹が鳴った。


「そういえば、今日のご飯の準備は誰だっけ?」


 吾郎が話を切り出すと、楓が指2本を立てた。


「あ、2人だよね?」


 楓の答えから吾郎と瞳は食材を調達しに近くのスーパーへと向かった。


 スーパー内では吾郎がかごを持ち、瞳の後ろ姿を見ながら呟いた。


「もし瞳が彼女だったらな・・・」


 瞳に聞こえたようで、驚きと困惑で反応した。


「えっ?何?」


「あ、いや、なんでもないんだ。そう、夕食のメニューを決めなきゃなって」


 ジト目をする瞳に対してその場をとりつくろった。


 スーパーから戻った2人は、瞳の小さなキッチンで料理を始めることになった。吾郎は瞳の料理する姿を初めて見て、彼女の手際の良さに感心し、言われるがままに手伝いを始めた。


 でも、ふとした瞬間に瞳の後ろ姿を見て、彼女に抱きつきたくなる衝動を抑えなければならない場面もあった。


 一方で、楓は新たな設計の影響を確認するためにパソコンに向かって計算に没頭していた。

 その後3人で夕食を楽しみながら、楓は報告した。


「計算上、問題ないかもね」


 そう言い放ち、3人が安堵の息をついた。それ以降も3人はダイナミックなデザインの構築に向けて、新たな可能性を模索しながら進んでいったが、楓が少し自信なさげだったが、そのまま採用してデザインを煮詰めていった。

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