第7話 グループ活動

 吾郎、瞳、楓の3人は建築デザインを修得するという共通の目標を追う仲間として、大学での授業を通じて次第に時間を共有するようになっていった。


 大学に入り授業が始まってから2週間ほど経過したある日、講義をしている教授が最初の課題を出した。


「3人から5人のグループを作り、そのグループで体育館をデザインすること。各グループで競い合って貰います。今後卒業まで何度かそのグループ単位でのコンペ等を行うので、慎重にグループを作りなさい。また、こちらで基本設計の構造計算をしており、その図面を配ります。柱の位置をずらす場合、構造計算をし直す必要があるので注意が必要です。しかし、ほとんどの人はまだ自力で構造計算出来ないと思うので、構造体を触るのは要注意です。つまり制約が大きい中でのデザインです。発表は・・・」


 早速楓と瞳が隣に座る吾郎の身柄を拘束した。

 腕を組む形で取り逃さないぞとしたうえで、楓と瞳は吾郎を無視して話し始めた。


「私達3人でグループを作ると言うことで良いわよね?丁度3人よね!」


「他に選択肢なんてないよね!じゃあ私と瞳、吾郎の3人でチームメイプルで決定!」


 珍しく2人が積極的に動き、楓に至っては安直だが、グループ名まで即決で付けた。

 吾郎は呆気に取られながら2人の腕と胸が!とその感触に真っ赤になりながら頷くしかなく、楓は早速グループの登録に向かった。

 吾郎もどうやって仲間を探すかなと思っていたら、まさかの美人2人からの誘いに喜ぶも、彼女に出来ないもどかしさがある。


 この課題に取り組むため、この3人は日替わりで誰かの部屋に集まり、デザインの構想を詰めていく。

 瞳はモダンなスタイルを、楓はロマンス調のデザインを、吾郎は前衛的な閃きを感じるスタイルを好んでいた。


 パソコンの前に座り、デザインや設計のアイデアを交換しながら取り組んでいった。

 授業の課題だけでなく、友情と互いの理解も深まっていく。

 3人の若者はお互いの視点を尊重しあい、最終的には共有のビジョンを持つに至った。


 一方で瞳と楓は心の中でどちらも吾郎を想っていた。


 2人は互いに自分の気持ちを隠し、吾郎への感情を友情以上に昇華させていた。そして2人はお互い吾郎が好きだと知り、ある種の協定を結んだ。


「彼が告白してきた方が付き合う。恨みっこなし!」


 この協定は絆を強くしたことはもちろん、個々のデザインや創造性にも影響を与え、3人の友情をさらに深めた。


 そんな折、3人は次第にある変化に気付くことになる。


 それは3人で集まって同じ部屋で時間を過ごすことが、こんなにも心地よく、同じ目標を追う仲間として、そして一緒に生活する友達として深まる彼らの絆に、恋愛感情が入り込んできているということだ。

 奇跡的に体の関係がない状態の、純粋にプラトニックな関係でだ。


 2人は慣れない1人暮らしに不安と寂しさを感じ、身近にいる頼れる存在、誠実な吾郎に惹かれたのは不思議なことではない。 

 正直顔だけを見ると平凡でパッとしない。

 2枚目かとは思うが、体は細いが引き締まっていて筋肉質で、見た目より力がある。

 自然体で掴み所がない。

 しかし、1度決めたら迷うことのない真っ直ぐさ、リーダーシップ、歳不相応に何でも出来て数年歳上に感じ、歳上の者に惹かれるそれを感じていた。


 もしこれが1年後に知り合ったなら状況は違ったはずだ。

 そんな2人の思いが交錯する中、彼女たちはある決意を固めた。

 それは、自分たちから一歩を踏み出すという勇気をもって、吾郎にアプローチをしようということだ。

 グループ決めがその第一歩だった。

 瞳と楓はグループを作ることは予め知っていた。2人は数ある建築デザイン学科の中から遠いこの名古屋の学校を選んだのには理由がある。

 正直なところ学校はどこでも良かった。

 目当はこの大学にいる教授だった。有名な教授がで、多くの有名な建築家を排出しており、下調べをしていたのだ。

 それに引き換え吾郎は隣の県で、1番近い建築デザイン学科と言う理由だけで選んでおり、グループ活動の事を知らなかった。


 2人の決意が新たな動きをもたらし、3人の関係がより複雑なものへと変化していく1歩目となった。


 しかし、吾郎はそんな2人の気持ちを知らず、1人の男として2人の魅力に悩む。

 間違いなく好きだと思う。しかし、彼氏がいる女をその男から奪うつもりはなく、2人のうちどちらかに彼氏がいなかったらな!とひしひしと思う。


 折角女子2人と仲良くなるも、恋人にできない相手の為に手放しで喜べなく、意にそぐわないが異性の友達として接していくしかなかった。

 ただ、その男と別れたらな・・・と実際は彼氏のいない2人に対し少しネガティブな感情を持つのは仕方のないことだろう。

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