第6話 部屋が真っ暗事件!

 3人は同じアパートと言うこともあり、すぐに友達として打ち解けていった。知人が全くいない状況で隣の人は手土産を持参して引っ越しの挨拶に来るし、真面目そうで感じがよい。

 身近にいる男子は県外から来た女子からすれば頼れる存在だ。顔は普通だが・・・

 楓も瞳も自分の容姿は分かっている。

 母親に散々言われてきた。容姿だけを見て言い寄ってくる男はダメと。体目当てだからと。しかし、最初吾郎は1人で学食に食べに行こうとしたので、楓が3人で行くわよと引っ張り出していた。

 楓も瞳も吾郎が何故か自分達と距離を置こうとする事を不思議に思った。女性に興味がない訳がないのは何となく分かる・・・だから気になった。


 そして引っ越しから1週間程し、寒の戻りが来た冷え込みの激しい夜、楓が寝間着姿で震えながら吾郎の部屋を訪ねてきた。


 ピンポン!ピンポン!ピンポン!とけたたましくチャイムが鳴り、何だろうとドアを開けるとそこに寝間着姿の楓がいたのだ。


「部屋が突然真っ暗になっちゃって・・・」


 楓は普段の口調と違い、自信がなく心細そうに言った。


「ああ、ブレーカーは見たかい?」


「どういうこと?」


「ほら、とりあえず中に入って。左右違うかもだけど、ほら、この位置にあるやつ。ここが下がっていたら上げないとだよ」


「でも、それだとそこ私の背じゃ届かないよ。吾郎なら届くのに。その、見に来てくれない?」


 楓は怖かったのか吾郎の服の裾を掴む。


「襲っちゃうかもだよ?」


「吾郎はそんなことしないよ!するなら今押し倒してるでしょ?」


「分かったよ。楓は男に対して無警戒すぎるぞ。まあ、頼られているのにそんなことしないけどさ。よし、楓の部屋を覗きに行こうかな!」


 やはりブレーカーが落ちていて、上げるとドライヤーの音がした。


 彼女が電気を使い過ぎてブレーカーが落ちただけのことだった。

 寒いからとエアコンを付け、お湯を沸かしている所にドライヤーを使ったのがトドメだった。

 進学校を出ていて頭はよいはずだが、生活面は知識が無さすぎた。


「・・・ということで、お湯を沸かしているときにドライヤーを使うとまずアンペア不足でブレーカーが落ちるから注意と、椅子か何か置いとかないと楓だと届かないな。でも大したことがなくて良かったよ」


「君がいて助かったよ!他に頼れる人がいないしさ」


「ふう。変な気を起こさないうちに引き上げるよ。にしても同じ部屋とは思えない綺麗さだな」


「へへへ!私こう見えても整理整頓は得意なの!」


 ドン!ドン!ドン!ドン!と外から何かを叩く音が聞こえた。


「何の音かな?」


「吾郎の部屋じゃない?」


「とりあえず行くよ。ちゃんと鍵閉めとけよ!」


「ういっす!じゃあまた明日!今日はありがとうね!」


 そうして楓の部屋から出た吾郎が見たのは、やはり寝巻きを着て部屋のドアを叩く瞳の姿だった。

 楓の部屋から出てきた吾郎を見て一瞬固まるが、早口に捲し立てた。


「ご、吾郎!大変なの!部屋が大変なの!」


「落ちついて。とりあえず俺の部屋に入ろうか」


 明るい部屋に入ると瞳は少し落ち着いたようだ。

 襲ってくれといわんばかりの寝巻き姿で独身の男の部屋に上がり込んでいて、人によってはレイプされる危険な状況ではあったが、部屋で起こった一大事に頭が回らなかった。


「何があったの?」


「えっと今、楓の部屋にいたの?」


「うん?ああ。ブレーカーが落ちてさ、部屋が暗くなったって言って慌ててきたんだよ」


「えっ?お、お化け?」


「いや、電気の使い過ぎで保護回路のブレーカーが落ちただけだったよ」


「その、私の部屋も急に暗くなったの・・・」


 楓と同じ状況だったので、先ずは吾郎の部屋のブレーカーを使って仕組みを教えた。

 しかし、何故か知らなかった。


「よし、瞳の部屋を覗きに行こうか!」


「うん。お願い!助けて!」


 パチン!吾郎がブレーカーを上げると、やはりドライヤーの音が・・・


「くくくく!同じやん!」


「吾郎君笑うなんて酷いよ!怖かったのよ!」


「ああ、ごめんごめん。エアコンを付けていて、お湯を沸かしている時にドライヤーを使ったんだろ?」


「何で分かるの?」


「楓とまるっきり同じだったからさ。さっき楓の部屋のブレーカーを上げたらドアを叩く音がしたんだよ」


「あっ!楓もなんだ。どうしてこうなるの?」


「それは・・・」


 一人暮らしの初めてのトラブルに彼女達は困っていた。


 新たな1人暮らしのスタートにおける共通の問題で、これを機に距離がグッと縮まり、更に3人の関係を複雑にしていくこととなる。

 吾郎は瞳と楓の2人とは一定の距離を保っていた。彼氏のいる女に入れ込んでも不幸なだけだと思ったからだ。


 それがあり、勘違いからとはいえ彼氏のいない自分達に対し紳士的に接する吾郎に対し、2人は厳密で理知的な関係を築くというスタンスには理解を示し、少なからず好意を抱いていた。


 それでも吾郎が2人に対して積極的に口説くような行動を見せないことは、少し不思議に感じていた。

 また、今回のちょっとした事件も冷静かつ的確に対処しており、頼れる男!と感じた。

 そして、彼女たちは考えた。


「もしかしたら、こちらから動いてみるべきか?」


 彼なら付き合ってもよいかな?と感じていた。もし今付き合って欲しいと言われたらその手を握る自信があった。

 それくらい今回は怖かったのだ。

 瞳に至っては笑われてしまったが、理由はともかく今若い男を自分1人だけの状況で部屋に招き入れた。犯されてもおかしくない無防備さをさらけ出していた。


 吾郎は瞳のまだ濡れている髪に、風呂上がりなよい匂いにくらくらし、これ以上ここにいたら押し倒してしまいそうだと感じて退散することにした。


「俺もソロソロ風呂入って寝ようかな」


「あっ!もうお湯入れたの?」


「これから入れようと思ったんだけどね」


「じゃあ私が入った後で悪いけど入る?ガス代もバカにならないわよ」


 吾郎は一瞬考えたが、好意に甘えようとした。


「じゃあ着替えとバスタオルを持ってくるよ」


 吾郎は思う。

 俺の部屋と同じユニットバスなのに、瞳のところの方が綺麗で匂いもよいなと。


「お風呂ありがとう!俺ももう寝るよ。じゃあまた明日!お休み!」


「うん。ほんと吾郎がいて助かったわ!寒いから気を付けてね!」


 そうやってその日のプチ事件は無事終わった。

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