第9話 課題への取り組み

 吾郎の今の気持ちは、この関係の距離感がちょっと辛い!だった。アパートで課題に取り組むときは、大抵吾郎が真ん中に座り、彼女達が左右にいるけれども、どちらが右でどちらが左かは決まっていないようだ。

 いつしか吾郎の中では、右に座るのが今日は学校では?アパートでは?と気になる。

 どちらも大した差はないが、左右が定まらない理由って何だろう?と思いつつ、今日はどちらなのかな?とちょっとした楽しみになっているまであった。


 無防備であるか否かどうかはともかく、狭い部屋だから肩が触れ合いその体温を感じる。

 ゴールデンウィークが始まる少し前に最初の課題の発表会がコンペ形式で行われ、順位も発表されるので気合いをいれていた。

 みんな将来は素晴らしい建築家になる夢を持っており、そんな若者の学ぶ意欲を上げる目的がある。


 今は春だからそれなりに薄着になっているし、マウスを操作する手が重なることもあるけれど、彼女達は気にしないのか、吾郎が手にマウスを持っている時に自らの手を吾郎の上に重ね、吾郎の手ごとマウスを動かしていたりする。


 吾郎はその手の温もりにドキドキしていた。

 肩が触れたり、手が重なり頭の中は情けないほど彼女達の事で一杯だ。


「ねえ、吾郎聞いている?この窓の大きさって、もう少し大きくできないかしら?」


 瞳がそうやってマウスを操作して窓を触る。彼女達は肩が触れたり手が重なっても平然としており、特に男として意識されていないのかな?と苦悶していた。


 彼女になってくれたらな!と思っているけれど、彼氏がいるのに好きだと言ったら今の関係が壊れるかもしれない?まずはこの課題を終わらせ、終わったら打ち上げをしようと思っている。その時に軽い感じで2人に彼氏はどんな人なの?と聞いてみようと思ってる。

 ひょっとしたら【もう別れて今はフリーなの】となっているかもしれない。


 吾郎は今のこの関係はなんだか心地良いんだよなと思う。

 今日は吾郎の部屋で打ち合わせをしていた。気が付くと楓が何やら部屋の中をゴソゴソとしているのが分かった。

 何をしているのかな?と吾郎が振り向くと何故か整理整頓されていた。


「やっぱり男の1人暮らしは部屋が荒れるわね!私がいて良かったね!」


 そう言って彼女達は勝手に部屋を掃除している。

 瞳はリセッシュ等の芳香剤を使ったり、空気を入れ替えたりしている。


「ほら、ちゃんと換気をしないといけないわよ!私がいなくても習慣にしないと臭いが籠るから」


 そんな感じだった。

 だから間違ってもエロ本とかは買えない。

 楓に限って言えばその手の物を探しているみたいで、ベッドの下を覗いていたが、ふと振り向くと下着がちらりと見えたこともあった。


「ちょっと!今私の下着を見たでしょ!全く男の子は・・・」


「楓?そんな短いの履いているから見えてしまうのよ!」


「てへへ!でも何も出て来ないんだよねぇ!・・・エッチな本も出てこないし残念!」


 こんな感じで吾郎の視線には敏感だ。何故ベッドの下を覗いているのに、お尻を見られたのが分かるのか謎だった。

 もしエッチな本が出てきたら楓はどうするのかな?


 2人は今では遠慮もない。

 むしろ完全にというか、わざと無防備を装ってさえいる。

 その気になれば吾郎の力ならば、2人を同時に襲うこともできる。

 それ程無防備に接してきていた。

 吾郎は次第に瞳や楓に対し、女性としての魅力を強く感じるようになっていた。

 日に日に彼女達に対する想いが強くなっていくけれども、黙ってそれらの感情を抱えたまま自分自身と闘っていた。


【好きだけど、彼女達には彼氏がいる。彼女たちの彼氏から奪いたいと思うわけじゃないけど、もし別れたらその時は・・・】


 吾郎の心にはそんな考えが沸々と湧き上がり、日々を辛くさせていった。

 何で彼女達が好きなのは俺じゃないんだよ!と枕を濡らす日々だ。

 幸いなのは引っ越しの日以来、男の気配がしない事だろうか。

 いや、デートはもちろん、電話の声すらしない。

 安アパートなので壁は薄く、小声で話さないと隣の部屋に筒抜けになる。


 どうにか理性を保ちながら吾郎は2人との共同作業を続け、彼女達の笑顔や魅力、細かな仕草や体温を感じ、親密さを増していった。

 でも同時に吾郎は自分自身の感情にとても混乱し、不安定だった。


 春が深まり、ゴールデンウィークが近付いて来たが、それは最初の課題の発表日が迫っていることでもあった。吾郎は体育館のデザインに情熱を注ぎながら、季節の移り変わりで日に日に暖かくなっていくにつれ、楓と瞳の素肌が段々と見え始めてドキドキする瞬間が増えていった。

 今では裾を捲っている為、素肌を晒している腕が直接触れる。2人は吾郎の前ではなるべく肌が触れるようにし、女性として意識してもらうように努力していた。

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