第12話 酔っぱらう

 その日の夜、吾郎の部屋ではカラフルな缶が照明を受けて反射光にて妖しい光を放っており、瞳と楓の顔を怪しく照らし出す。

 紫やピンクと言った女性受けする缶の反射により2人の顔は怪しげな笑みを浮かべる妖艶な雰囲気だった。


 ノリノリの音楽が部屋を満たし、祝いのムードが漂っていたのは、3人が自身たちの成功を讃え、打ち上げと称して集まったからだ。

 吾郎の部屋に集まることが増えた。 それは両隣を気にする必要がないからだ。騒いだとして、文句をいう隣人がここにいるからだ。


「これ、ほんと、美味しいわね!」

 

 瞳が声を上げ、2人がノンアルコールと思わせるような外観をしたカクテルの缶を手に取る。

 実は楓と瞳が飲んでいたのは、彼女たちがノンアルコールだと思い込んで買ってしまったアルコール入りのカクテルだった。


 それは店側のミスで、ノンアルコール飲料としてアルコール入り飲料を販売してしまったことによる。

 3人で買い物に行き、飲み物は楓と瞳が選び、吾郎が押すカートに入れていった。

 レジで年齢確認もされなかったので今に至る。


 そのスーパーでは、本部の者がアルコール入りカクテルをノンアル飲料だと勘違いして登録してしまい、誰も気が付くこともなく売られてしまったのだ。

 その新商品のフレーズ

「まるでノンアルのように!アルコール感がない新感覚!」からアルコール入りではないと誤解してしまったからだ。


 吾郎はこの状況を察知した訳ではないが、明らかに体が火照り、体調が変わったと感じたタイミングで缶を手に取りようやくアルコール入りだと理解した。


「2人ともこれ、アルコール入りだぞ!もう飲むな!」


 飲むなと止めるも既に楓と瞳はほろ酔い状態だ。

 吾郎の警告を無視し、いや、耳に届かなかった。

 彼女たちは無邪気に笑い続け、 その光景も一瞬平穏に見えたのだが、その次に投げかけられた質問は吾郎の顔色を一変させるに十分だった。


「じゃあさあ、吾郎って私たちのどっちと付き合いたいの?私たちの事好きよね?時折顔とか胸見てるもんね!」


 瞳が突如問いただしたが、その展開に楓も興味津々で吾郎の答えを待つ。


「え、ええと…俺?付き合いたいの?って…まさかとは思うけど、2人とも彼氏とかいないの?」


 吾郎は頓珍漢に答えるが、彼女たちは笑いながらあっけらかんに答えた。


「彼氏なんていないに決まってるよ!大学受験で彼氏なんて作る暇ないわよ!大学で初彼氏を作りたいのよね!どう?私の事好き?」


「あらさひもいないよー!わらひの初彼氏にろう?」


 彼氏は今までいないと、彼氏の存在について否定した。

 大学受験に尽力し、恋愛など考えていなかった!その返答に吾郎は驚くと同時に、ふたりからのプレッシャーに押された。


「俺、ふたりとも好きだ…。ただ、彼氏がいると思っていたから言えなかったんだ。どうすればいいんだ…?選べないよ」


 好きだと告白してしまう。

 しかも酔っていたから本音を口にしてしまい、その言葉に瞳も楓も半信半疑。

 吾郎が認めやすい雰囲気を作ろうとしていたとは知らず、本音で返した言葉ではあるが、さすがに想定外の言葉に彼女たちは驚きと困惑に満ちた表情で吾郎を見つめ続ける。


 その後の混乱を予感させるような深い沈黙が部屋に広がった。


 そしてバックにはThe Isley BrothersのBetween the Sheetsが流れ【アイズレーブラザーズのビットウィーン・ザ・シーツ】その甘い恋の囁き、バリバリのラブソングに3人の心は揺れる・・・

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