第11話 結果発表
新緑が窓から見える大学の教室で、建築デザイン学科の120名の生徒たちの心拍数が上がり、ドキドキしながら今か今かと発表の瞬間を待っていた。
結果をまとめた教授が咳払いをした。
「まず3位ですが・・・メイプル、前へ・・・」
誰もが見守る中、吾郎達3人の名前が告げられると、吾郎、瞳、楓の3人が勢いよく立ち上がった。
「やったー」
「やったわ!」
「嘘!信じらんない!」
三者三様に驚きと喜びの声を上げ、楓と瞳が吾郎に抱き付く形で喜び合う姿を見つめ、教室は一瞬の静寂に包まれた。
しかし、その一方で男子生徒たちの間からは、あからさまな嫉妬と怨嗟の声が上がっていた。
特に、前々から瞳に思いを寄せていたある男子生徒の表情は紅撚りたくなるほどだった。
「何だよそれ!瞳ちゃんを狙っていたのに!もうやられたっていうのかよ!俺の方がイケてるだろ!おかしいだろ!!くそっ、もう手遅れなんかよ!」
「何であんなヒョロッとして頼りなさそうな奴のどこがいいんだよ!間違ってるぞ!楓までかよ!」
男子たちは吾郎を指さし、彼の見た目と体格を揶揄し始めた。
「リア充爆せろ」
等はましな方だ。
確かに周りから見たらリア充だろう。
しかし、吾郎は恋人に出来ない女性と常に一緒で、プラトニックな関係にならざるを得ず生殺し状態だったが。
その妬み深い視線と誹謗中傷で満ちた叫びは、吾郎がこれからどれだけの困難に直面するかをよく示していた。 それに対して周りの女子の反応は好意的だった。
「あの子たちはそういう関係じゃないわよ。男女が友情で結ばれることだってあるのよ。彼らの絆、それ自体が奇跡なんだから。あんたの基準で見るんじゃないわよ!顔も彼のほうがイケてるわよ!それにこの中で彼が1番強いわよ」
特に瞳や楓と仲の良い女子は強く反論していた。
しかし、その声は疑っている男子達には到底届いていなかった。
教授は皆が落ち着くのを待ち、吾郎達の作品の評価を始めた。
「このデザインですが、全体的に見てかなり良く作り込まれていますね。ただ、残念ながら女子高というテーマからは少し外れている部分もあり、それが評価を下げて3位になった理由でもあります。しかし、全体的に見て女子校以外ならば十分に評価されると思います。それと柱の位置をずらしていますね。よく構造計算が出来ましたね。今回柱を動かし、構造計算をきちんとやらずに失敗したグループがいくつかあるんですが、誰が計算を行ったんですか?」
その言葉に、教室は一瞬だけ平穏な雰囲気に包まれた。
吾郎が答えた。
「あの、その修正についてなんですが、実は僕の父のパソコンにあったソフトを使ったんです。小さな設計事務所を営んでいましたので」
そう打ち明けると、教授はほんの一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに吾郎のことを認めるようにしっかりと頷いた。そして吾郎に父親の名前を尋ねると少し驚いた顔をした。その言葉に、クラスメイト達も疑いよりも認識の方が強くなり、吾郎たちの評価を更に高評価で一杯にした。
その後、2、1位の発表と評価が行われた。
その日、1位の女子4人グループのリーダーから3人は握手を求められた。
少し茶色に染めたセミロングの気の強そうなリーダーだ。
「納得いかないわ。本来あなた達が1位でしょ?何故よ?」
「ああ。昨夜になって構造計算が間違っていることに気が付いてさ、最初に検討した時のボツ案でやり直したんだ。最初に柱を動かしてしまい今更修正が間に合わないからね。なので最初に女子校には駄目な感じだよなとなった方でやり直したんだ。俺が女子校向けと失念して出した案なんだ。構造計算が間違っていなかったから本来のデザインを移植して何とかしようとしたけど、細かいミスを潰しきれなかったんだと思う。教授にはそこが分かったんだと思う。スミレさんだっけ?貴女達のデザインはやはり1位に相応しいと思うよ!」
「ふんっ!・・・まあ今回はそう言うことにしといてあげるわ。一晩でミスを挽回するなんて、貴方、見た目よりやるのね。それより貴方、吾郎君だっけ?気を付けなさい!やっかみが凄いわよ」
4人と楓、瞳は少し挨拶をし、その後大学を引き上げた。
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