第13話 告白

 瞳と楓は吾郎の告白に対して、初めは驚きと沈黙の表情を浮かべた。しかし次に来た反応が彼が心配していた憤りの表情ではなく、瞳の嬉しさからの涙によって描かれた光景だったことは彼を驚かせた。


「吾郎・・・」


 その名前を優しく呼ばれ、彼の心臓は激しく高鳴った。彼女の声からは、普段見せない繊細さと優しさが聞こえてきた。


「私たちは長い間一緒に過ごし、互いに戯れたり支え合い、お互いの全てを共有してきたわ。私たちと吾郎は特別な関係を築いてきたの」


 瞳がそう語りながら肩をすくめ、その感情の深みから涙が頬を伝い落ちた。

 一方で楓も静かに吾郎を見つめていた。

 その態度は瞳とは違っていたが、彼女もまた同じように深い感情に包まれていた。


 楓が小さな声で吾郎に向かって言った。


「これから吾郎の心情に向き合い、私たちの気持ちを理解した上で進んでいきたいの」


 瞳も頷きながら答える。


「吾郎、少しだけ時間をください。私たち自身が感じていることに向き合い、冷静な判断を下したいの」


 吾郎は深く頷く。


「うん。2人の気持ちを尊重するよ。だから、じっくりと考えてほしい」


 そう答えた。

 その言葉をもって、一時的な静寂が彼らに訪れたが、その静寂の中で少しずつ新たな希望の光が見え始めた。


 しかし、酔いの所為で会話が定まらず 大胆な発言や本音がダダ漏れだったが、ふとした時に静まり返った空気は一転、瞬く間に和やかなものへと変化した。


「まったく、吾郎君ってば、何考えてるのか分からない時があるから困っちゃう。でもね、じっくり考えてみるよ!」


 楓の純真無垢な言葉で空気が一層緩んだ。すぐに彼女が自信溢れる声で続けた。


「でもね、今はそんなのは二の次よ。私達が3位に入ったんだからこれは間違いなくお祝いだわ!いえ〜い!」


 楓のクリアな声と明るい笑顔が、部屋に平和をもたらす。

 そして全員が口々にお互いの功績を称え、笑顔になった。


「楓、君があの日のデザインを提案してくれたから、この結果があるんだよ。」


「瞳、君が窓の提案とデザイン作りを頑張ってくれたから今日のこの喜びがあるんだ」


 お互いの努力を称える声が飛び交った。

 それから楓が再び吾郎の方を向く。


「それにしても吾郎君、タイミングは何だかんだでさすがだわ」


 素敵な笑顔を浮かべて言ったが、吾郎はタイミング?と意味がわからないがノリで話を合わせる。

 次に彼女は加減を忘れて吾郎をからかう。


「吾郎君ってさ、ずっと私の胸ばっかり見てるでしょ!自覚ないの?!」


 この無邪気な一言に吾郎は大困りで、顔を赤くして否定した。


 それに続いて瞳が冗談を飛ばす。


「何?何?吾郎君は・・・私の胸が見たいの?なら、吾郎になら見せてあげてもいいかもしれない・・・」


 既に上着のボタンを外した彼女の発言と行動に、部屋中が一瞬息を呑んだ。


 服を脱ごうとしたその瞬間、慌てて楓が立ち上がる。


「待って、瞳!安売りしちゃだめ!」


 瞳の腕を取り彼女を止めた。

 何故かその一件で打ち上げの雰囲気はさらに楽しくなり、皆は笑い合った。

 最後に吾郎が立ち上がる。


「特に瞳は、飲ませてはいけないと思ったよ・・・」


 眉を釣り上げて言い、皆を更に笑わせた。

 その一連の出来事で皆は更に恋愛感情を深め、3位に入った喜びも倍増した。

 そして、結果的に誤ってアルコール入りの缶を開くことになった打ち上げは、これでもかというほどに楽しいものとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る