第18話(ミッドウェー海戦)
十八話(ミッドウェー海戦)
帝国日本海軍虎の子の空母機動部隊司令官、南雲忠一は敵機動部隊発見の為に血眼になって偵察機を飛ばさせていた。
「敵機動部隊はいったいどこにいるのだ?」
事前の指示に従って艦上攻撃機には魚雷装を徹底したが、肝心の敵空母を発見・撃沈しなければこの作戦の意味も意義もなくなってしまうのだ。
「それは許されん」
南雲司令が神経を尖らせていたその時、偵察機から「敵影見ユ」の報が入った。幸運なことに空母が含まれていた。
「この時を逃すな!攻撃隊発艦せよ」
空母『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』の各艦から敵機動部隊めがけて乾坤一擲の攻撃隊が襲い掛かるべく発艦していく。
「これでこの作戦は成功裏に終わるだろう…」
南雲司令は確信した。
そこが唯一の指揮官の心の隙間だった。
その僅かな心の隙間は部下の将兵にも伝染していた。
敵空母『ヨークタウン』『ホーネット』撃沈『エンタープライズ』大破という大戦果を挙げたにも関わらず、米軍艦載機の捨て身の果敢な猛攻を受けた末に『加賀』が撃沈されてしまったのである。
「加賀が沈む…」
居合わせた者たちは皆、絶句した。
結果としてミッドウェー海戦そのものは帝国日本海軍の一応の勝利に終わった。しかし、日本海軍機動部隊の虎の子の空母一隻を失った事に変わりはなく、量より質で勝負しなければならない日本海軍にとって大きな痛手となった。完全勝利以外は戦略的な敗北の遠因に繋がると考えたのかも知れない。戦果の報告を受けた山本長官は、
「そうか」
と喜ぶでも悲しむでもない平坦な言葉で応じただけだった。
既に日本陸海軍全体の補給線は伸びきっており、海軍としては機動部隊の燃料・艦載機の補充を考えたら母港・呉まで寄港させざるを得なかった。
陸海軍足並みを揃えて布哇(ハワイ)攻略作戦を実施することは夢物語でしかなかった。
「ミッドウェー海戦の勝利一つで戦局が大きく変わる程、この戦争は甘いものではない」
山本長官は一人で呟いた。
「加賀が沈んだことで大和型3番艦『信濃』を空母に変更させる理由にはなったか…」
それは空母不足の日本海軍の、素直に喜べない誤算の産物であった。
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