第10話(札幌民主自由国の内部事情)

十話(札幌民主自由国の内部事情)


札幌民主自由国は戦時急造国家故に平声時代の日本国憲法をベースにした憲法を運用していた。しかし、札幌を中心とした小規模国家となり日本国憲法のすべての理念理想を実現し続けるのは困難が予想された。政治制度は議院内閣制と大統領制をミックスした大首領制で、これは苦肉の策であった。

あわせて閣議決定と大統領令をミックスした大首領指示令により行政権力が肥大化しかねなかった。

だから、北海道制圧作戦中止は帝国臣民も札幌民主自由国の国民にとっても今は悪い展開ではなかったのである。

「あまりにも権力を集中させたら民主自由国の看板に偽りありになるところだったわ」

矢矧須津香は大首領執務室で勢いで物事が進む怖さを知った。

国務官房長官『斑鳩(イカルガ)勇一郎』は、「あんたが中心になってやったことじゃねぇか」と内心毒づいた。後始末に追われたのは他ならぬ彼なのだから無理もない。

国家と名乗りながらも議員はなく、大首領の任命により政府要職は決められていた。

戦端が開かれる間近の非常時に選挙を更に重ねるわけにもいかなかった。

札幌民主自由国は異端の世界から来た者たちの国である為、彼らが持つ現金や電子決済やクレジットカードなどの支払いシステムはネットワークが存在しないために無効化された。現金は紙幣も硬貨も用をなさなかった。札幌国外での話だが...

帝国日本の貨幣・紙幣の導入が検討された。その背景には、

「商売しようにも『アンタらの金はうちでは使い物にならんよ!』の一点張りだもんな」

とある商売人のそのボヤキに象徴されるように札幌民主自由国は正式に国際承認された国家ではないのだ。ましてや帝国日本の通貨でもないのだ。扱いとしては『満州国』のような立場にいるのが現状であった。立場がどうであれ国際的な見方は従属国家という位置づけに見られていた。

やむなく札幌民主自由国副大首領兼財務長官斑鳩(イカルガ)大輝<斑鳩(イカルガ)勇一郎の従兄弟>は、禁じ手である貨幣の改鋳を財務局に指示し、一円硬貨のアルミニウムなどの大日本帝国が喉から手が出るほど欲しい鉱物資源の輸出を始めたのであった。札幌国内だけでもどれほどの小銭が眠っていることか、使い道がないのならと札幌国民は政府の要請に応じて貨幣を相応の物品・特に寒さを凌ぐ為の燃料と交換した。しかし軍事用の燃料は札幌国の生命線の一つ故においそれとは帝国日本に提供するわけにはいかなかった。帝国日本側もそれについては強く求めなかったが軍事技術に関してはかなりの熱意をもって技術供与を求めてきた。

当然のことながらここは交渉のテーブルに着かざるを得なかった。

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