第8話(日札同盟締結)

八話(日札同盟締結)


札幌民主自由国を名乗る武装勢力が北海道制圧に乗り出し始めたという報せは帝国日本政府を震撼させた。

「これから米英らと一戦に及ばんというときに!」

既に総理は近衛文麿から東条英機に変わっていた。

この期に及んで交戦しなければならない相手を増やしたくはないのだ。それだけにこの何者なのかもわからぬ武装勢力とどう向かい合うか、東条にその手腕が問われていた。

東条は札幌民主自由国の実態調査などに時間を費やした。その結果、敵に回すべきではない相手であることが分かった。

勝和15(1940)年末御前会議の場で東条は居並ぶ閣僚ら歴々の前でこう述べた。

「この際、札幌民主自由国を対等たる同盟国として遇しこれ以上の版図拡大を防ぐことが肝要と存じますが如何に?」

東条のこの言に対して反論を返せば自らに責が及ぶと判断した閣僚は保身の為に沈黙を貫いた。黙ることは肯定と判断される。

「異存なしと判断します」

議論する余地もなく日札軍事同盟が推し進められた。昨日の敵は今日の友である。

勝和16年(1941年)1月某日、函館にて日札同盟が正式に締結された。

「大本営発表、大日本帝国は札幌民主自由国と同盟関係に至れり」

この時に多くの帝国臣民は札幌民主自由国の存在を知った。

新聞各紙も軍部の意向を忖度したため友好的な文面が紙面に踊った。

「日本に協力する同胞現る」

「いざ共に米英に立ち向かうべし」

百万の援軍を得たかのような喧伝ぶりに帝国日本臣民は浮かれていた。

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