第3話(あの引き金を引かせるのはあなた)

三話(あの引き金を引かせるのはあなた)


どう見ても我々の時代の公用車から降りてきた女性は深々と頭を下げて、

「北海道知事の矢矧須津香と申します。こちらの駐屯地の責任者の方はどちらにいらっしゃいますか?」

「私がこの駐屯地の暫定的責任者の田ノ浦真守(一佐)です。我々も知事をお探ししようとしていた矢先だったのです」

「ということは、私に期待されることはあなた方を預かる立場につけと仰りたいのですね?」

「端的に言えばそうなります」

「しかし事は急ぎます。有権者リストなどの作成はできているのですか?」

「避難者名簿の作成の際に、未成年者と分けてリスト化されております」

「では、急ぎ住民投票をしなければいけませんね」

そう矢矧須津香知事が言い放った真意を田ノ浦は聞いた、

「住民投票で何を住民に問うのですか?」

「札幌臨時政府の樹立と私による暫定政府の承認です」

「あなたに我々に引き金を引かせる覚悟がありますか?」

「なければわざわざここまで来ることはないでしょう。あなた方に背負わしてしまう業を私も共に背負いましょう」

考えていること、理想、覚悟は素晴らしいことだと田ノ浦は純粋に思った。もしも、この人が口先だけの政治家であったならそれを見抜けなかった俺は死ぬだけでは償えないだろうとも強く思った。

勿論、そのような香りのする胡散臭い政治家連中は腐るほど見てきた。俺にだって人を見る観察眼くらいは人並みにあるという自負があるのだ。

「ここまでは一個人の見解を交えました。札幌市長が安否不明という報告が入っていますので住民投票が終わるまでは暫定的に知事であるあなたの指揮下に我々自衛隊はお預かりとなりますので宜しくお願いします」

「わかりました。札幌の警察力が著しく低下している現状ではあなた方自衛隊による治安維持が頼りです。住民投票の方は議会で速やかに議決が成されるでしょう。あとは民意を問うまでです」

「投票の争点は?」

田ノ浦は核心を突いた。

「私をトップとして承認するかしないかです」

(この人策士だ…)田ノ浦はそう思った。そしてここから先は自衛隊がかかわるべき案件ではないと判断した。

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