第2話(田ノ浦真守の憂鬱)

二話(田ノ浦真守の憂鬱)


札幌駐屯地の田ノ浦真守<タノウラマモル>一等陸佐(一佐)は、避難者の対応に忙殺されていた。

とにかく今回の天変地異的災害の実態も全容もわからない。通信網はことごとく無力化しており、道内の駐屯地等への連絡もままならない。

「まさか、この札幌駐屯地以外の自衛隊はいないのか?」

それは最も考えたくもない発想であった。

「50.000名程の戦力がこの時代にどれほど役に立つのだろう?」

田ノ浦はある考えがあって避難者の情報管理のために保険証やマイナンバーカードや免許証等を照会させてもらうことで迅速に名簿作成を済ませようとした。

「これは本来はお役所の仕事だ…」

ボヤキはするものの役所とも連絡が取れないうえに手の空いた隊員もいない。目の前の雑事を片付けて田ノ浦一佐自ら役所なり北海道庁なりを訪ねるしかなさそうだった。

そして身分照会を試みたがデータベースにアクセスできないという根本的な問題にぶちあたり、手作業による確認に変更したためにさらに仕事が増え、長く待たされた避難者は疲労とイライラが溜まり険悪な空気さえ漂い始めた。

「まだかよ…」

避難者が思わず漏れこぼしたその声を聞いてしまった隊員は、「こっちは必死でやってんだよ!」と心の中で舌打ちした。

「上の人間はこんな時に身分照会だなんて何を考えてんだか」

隊員は愚痴りながら指示通りに個人情報の仕分けをしていると隊員向け仕分けガイドラインの狙いに気づいた。

「札幌市民の有権者のデータベースの構築が最優先される仕組みになってるぞこれ」

隊員は気づきはしたが気づかないふりをしてお茶を濁した。「知りたがりは早死にするもんな」心で呟いて知らないふりを通した。

翌日になって近隣を探索すると我々側の小中学校が確認された。そこで順次そちらへ避難者に移ってもらうことにした。

その結果札幌駐屯地に溢れすぎていた避難者はバランス良く避難所となった各地の体育館に移った。しかしもたもたしていたら避難者の不満は限界に達し暴発しかねないだろう。そうなってはならない。この時代に我々はイレギュラーな存在だ。暴走した行為が行われれば市民は鎮圧され、最悪の場合は死者が出ることだろう。

「そんなことがあってはならない」

田ノ浦(一佐)は強く肝に銘じて事に当たることにした。

今現在、田ノ浦(一佐)たちに自衛隊の行動基準を示す政府のいない中で田ノ浦(一佐)たち現場の人間は何者かに襲撃された際には生存権の行使か国民(時空転移して来た人々のこと)の安全の確保における警護目的の武力行使を緊急一時措置として専守防衛の範囲内で対応することとした。

「このままでは、俺たちは謎の武装勢力扱いになるだろう。誰か文民として統制してくれる政治家がいないものか…」

俺が呟いているのを漏れ聞いたのだろう。唐渡征二<カラワタリセイジ>陸士長が切り出してきた。

「北海道知事が適任だと思いますが」

「それは何故だ?」

「士長の私が言うのもなんですがこの先この世界で生き抜こうとしたら、我々の世界の北海道知事の指揮下で行動すれば暫定的にせよ問題は今よりは改善されると思うのです」

そんなやり取りをしていると一台の公用車が札幌駐屯地を訪れてきた。

北海道知事『矢矧須津香<ヤハギスツカ>』その人を乗せた公用車である。

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