第8話 商人登録と、密約
《sideシノ》
旦那様に連れてきてもらった街は、普通の人が作った街ではありませんでした。
ドワーフたちが作った街で、住んでいるのもドワーフです。
ドワーフの王様が統治しているドワーフ王国でした。
「シノ、迷ってしまうぞ」
「申し訳ありません」
ドワーフの街は、すべての建物は独特な建築方法で建てられています。
歪で芸術的な作りをしたものがあれば、鉄で全てを構築した無骨な家も存在します。
不思議な町並みに興味がつきません。
「ここだ」
商人を表す、天秤と金貨の看板が表した店へと入っていきます。
「邪魔するぞ!」
「うん? なんじゃお主は?」
大量の髭を生やしたドワーフさんがカウンターに座っておられます。
「商人登録をしたい」
「ほう、人間族と獣人族が、ドワーフの商人ギルドで登録とは訳ありか?」
瞳が隠れるほどの眉毛の隙間から、ドワーフさんが私たちを見ました。
「そうだ。俺様は商人ギルドから追放されていてな。今回はこの娘に登録をさせたい」
「悪徳商人とは面倒そうだな。訳ありは断りたいところだ」
ドンっ! と旦那様がカウンターに小瓶を置かれました。
「幻の逸品、火酒サラマンダーだ」
「なっ!」
「俺様は、こういう商品を取り扱いたいと思っている。だが、商人にならなければ取り扱うことができない。俺はもう商人にはなれんからな、彼女に登録をさせたい。それでもダメだろうか? もちろん、登録させてくれるなら、この小瓶のサラマンダーは貴殿に進呈しよう」
旦那様の言葉に、ドワーフの受付さんは震えておられます。
「くっ、悪徳商人って奴らは……」
「悪いな。だからこれは密約だ。俺様のことは隠して、彼女の名前だけで商人ギルドに登録させてほしい」
「……味見してからだ」
ドワーフさんは、旦那様の差し出した小瓶に一口つけました。
「ぐっんんん!!! これは!!!」
驚いた顔をして、旦那様の顔を見つめました。
「よかろう。その密約を受けよう。それで? この酒はどれぐらいの量をいつ頃入荷できるんだ?」
「もちろん、今すぐに1万までなら用意できる」
「ほう! どうだ? 我が商会ギルドの酒として独占契約を結ばんか? もちろん、契約者は嬢ちゃんでいい。そして、嬢ちゃんには商人ギルドの説明と初めての取引ということで、作法も教えよう」
ドワーフさんの方から旦那様に向かって交渉を始めてしまうほどに、あのお酒は美味しいのでしょうか?
獣人族もお酒は大好きです。
私は幼かったので、飲んだことはありませんが。
獣人族は十五歳の祝いに、両親からお酒をプレゼントされます。
もうすぐ十五歳になる私も成人というわけです。
「ほう、随分と破格の条件だな。俺様を悪徳商人と知ってもか?」
「それでもだ。こちらとしても法外な値段で売りつけられるよりも、ここで取引を結んで恩を売っておいた方がいい」
「よかろう。シノ」
「はい!」
「商人ギルドの登録をするぞ。このドワーフに説明を聞け。俺様は手持ち以上の数を仕入れに戻っているから、説明が終わった頃には戻ってくる」
旦那様はそれだけ伝えると商人ギルドから出ていかれました。
「お前さんも苦労するな。とりあえず文字は書けるか?」
「はい! 勉強しました」
「よし、なら契約書を作るから、まずはここに名前と年齢を書いてくれ」
ドワーフさんは旦那様と話す時とは違って優しく語りかけてくれました。
私は渡された書類を読んで、名前を記入していきます。
商人ギルドへの登録証と書かれている書類には、注意事項が書かれています。
内容的には難しいことはなく、商売の安全性が商人ギルドで保証されている代わりに、己の采配で行うべし。
つまりは、商人ギルドは問題があれば仲介に入るが、基本的には己の才覚で商人として責任を持ちましょうという内容だった。
「書けました」
「うむ。商人ギルドの登録料はすでに先ほどの男が払っていった。そして、今後は一年に一度で構わんから商人ギルドに納税をしてくれれば構わん。納税の量によってランク分けが行われておる」
「ランク分けですか?」
「そうじゃ。今から嬢ちゃんはCランクじゃ。新人じゃから商人ギルドに収める税は少ない、銅貨一枚でも構わん」
それも旦那様がすでに納めてくれているそうです。
いつの間にそんなやり取りをしていたのかわかりませんが、旦那様は全てがスムーズにことを運ばれます。
「ついで、Bランクからは一般的な商人として、それなりの納税義務が生じる。その代わりに商人ギルドとしても、優遇処置をとる制度をいくつか設けておる」
Bランクになれば、仕入れができる範囲や冒険者に依頼を出せる範囲なども広がって取引できる幅が大きくなるそうです。
「さらにAランクと呼ばれるためには自身で店を持ち、ある程度の成果と納税をしてもらうことで、商人ギルドがバックアップやることができる。国などに強引なやり方で取引を持ちかけられた際に、商人ギルドが間に入って緩和剤になったりな」
商人ギルドや、冒険者ギルドなど、ギルド運営者たちは、働く人たちを守るために国と戦ったりしているそうです。
「最後に悪徳商人のレッテルだけは気をつけることだ」
「悪徳商人ですか?」
「そうだ。各国の国側からブラックリストに乗せられてしまうことで、どれだけ納税額が多くても商人ギルドでは庇うことができない者を悪徳商人という。奴らは裏取引や商人ギルドでも把握していない商売をしているので、庇えないという意味でもあるがな」
先ほど旦那様は悪徳商人と呼ばれていました。
いったい旦那様は何をしたのでしょうか?
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