第4話 奴隷を回復するぞ
ワープで飛んだ先は森の中に作った俺様の隠れ家だ。
本当は奴と作ったアジトであったが、奴が死んだ今は俺様一人の物になってしまった。
久しぶりに入ったアジトはカビ臭い。
「クリーン!」
家全体を魔法で掃除する。
滅菌もできるので、余計なバイキンも殺すことができる。
攻撃力は皆無だが、こういう使い方をすれば微生物なら殺せるのだ。
レベルは上がらんがな。
まぁ、獣や魔物に使っても殺せなかったのは検証済みだ。
「くくく、世界とは不条理なものよ。俺様は攻撃力を失う代わりに多くの力を得てしまったのだからな」
アジトの中が綺麗になったので、次は外に放置している奴隷の元に向かう。
檻から出された状態のままで、全身から発せられる腐敗臭が酷い。
すでに人の形を成しているとは言えない。
「ふむ。まずは呪いはあれだな。呪詛返しだったな!」
俺様は魔力で獣人娘にかかった呪いを特定して、術者を見つけ出す」
「くくく、もう老耄だな。俺様が攻撃するのではなく、自らの呪いによって死ぬがいい。呪いし者に返りたまえ」
我が呪詛返しを唱えると、それまで全身が腐り蝕まれていた体は侵食を止めて、呪いが止まったことが感じられる。
そこからは麻酔魔法で腐った箇所を全て摘出していく。
攻撃力がないので、相手にダメージや痛みを与えることはできない。
痛覚は勝手に感じるだろうが、俺様からのダメージ判定にならないので、人を殺しても経験値は入らない。
神が定めたルールではあるが、正直、攻撃力という観点は何を意味しているのやら。
新しい皮膚から筋肉や細胞を復元して移植し直す。
その上から、回復魔法をかけて体を全て修復していく。
内臓や声帯など見えない場所も失っている恐れがあるので、腹を捌いて胃や腸など、無くなっている臓器を先に再生させて腹を閉じる。
傷口も残らないように修復して、失った箇所は多くあったが全て細胞の再生を行うことで回復させることに成功した。
失明している目も新しく皮膚から再生させた目玉を入れ替えて、もう本物の原型がどんな状態だったのかわからない。
本人の皮膚から全てを再生したので問題ないだろう。
全てを完成させて、点滴を打ちながら栄養を直接血液の中へと送り込む。
急いで送っても、すぐにダメになるので、全てを注ぐのに時間をかける。
ガリがりに痩せた腕は、血管が浮いているので指しやすように見えるが、実際は刺した血管もボロボロで上手く刺さらないなどがある。
大きな血管を見つけて一発で成功させるのは至難の技だ。
全てが終わった頃には、夜が明けていた。
「ガハハハ、久しぶりに行ったが腕は鈍っておらんな。相変わらず殺す方には全く意味をなさない攻撃力だが、回復や治療に使えば普通に体も切り裂けるのだから不思議なことよ」
辺りが血まみれで、汚れてしまったのでクリーンで綺麗にして奴隷をアジトの中へと連れていく。
綺麗にしたシーツの上に寝かせて、腹ごしらえをして眠りについた。
♢
《sideある魔導士と貴族家》
我は長年魔導を極め、多くの魔法の研究させてきた。
その中で最も優れた魔法と言えば、やはり妖狐族に放った呪いであろうな。
全ての妖狐族を殺せる訳ではないが、一つの一族を滅ぼすことができるほどの呪いを作り出した我こそが天才なのだ。
あの貴族からはたんまりと研究資金を得られることができて、双方が納得できる形で幕を閉じた。
妖狐族の命など知らぬよ。
我は、我の魔法研究が一番大事なのだ。
「なっ?」
不意に腕に痛みを感じて腕を見れば、そこには腐敗が広がっていた。
「なぜ、我の腕が腐っている?」
これは我が開発した呪いと同じではないか? 貴族に頼まれて家族を殺された恨みを晴らすために妖狐族の一族を全滅させるために、最も苦しみながら死ぬ方法で呪ってほしいと言われて編み出した魔法だ。
それがどうして私に戻ってきている? こんなことができる魔導士はこの世に存在しないはずだ。
まさか魔族の仕業か? くっ! こんな形で死にたくない。
そうだ。これは五年かけて死にいたる呪い。
ならば、その間に研究して呪詛返しを行えば、すぐに取り掛かろう。
「おい! 魔導士! これはどういうことだ?」
「あなたは!」
「貴様が作った呪いであろう! 早くなんとかせよ」
我に呪いを作らせた貴族が乗り込んできた。
それを解決するための研究をするところだと説明しても、一向に話を聞かない。
なんなのだ! 貴族とはどうしてこうも理不尽なのだ。
「お前の体などどうでもいい! 私の治療を一番にしろ!」
詰め寄られている間も時間を奪われる。
「なっ!」
私は右腕の侵食状況を見ようとして顔を顰める。
本来は、手の甲だけだった侵食は右腕全体に及んで、右腕が使えなくなっている。
「進行が早い!」
「くっ!」
目の前で貴族が倒れる。
先ほどまで怒鳴っていた貴族は、全身に腐敗が進んでいて、事切れていた。
「早すぎる!」
気づいた時には我は膝が崩れ全身に腐敗が回って事切れた。
いったい何が起きたんだ。
ある魔導士と貴族の死は、新聞の隅っこで書かれて終わりを迎えた。
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