第14話 男子高校生、仕事する
唯奈は困惑しながら雷斗のそばに立り、声を潜めた。
「ねぇ、私は召魔術なんて使えないけど」
「大丈夫。今から俺が補助するから、安心して」
唯奈は半信半疑だったが、雷斗の自信があるらしい顔を見て、とりあえず言われたとおりのことをやることにはした。
「ちょっと背中に手を当てるね」
「うん」
雷斗は唯奈の背中に手を当て、自分の魔力を流した。
瞬間、唯奈の体がビクッと震える。突然の異物感に、体が驚いた。しかし、徐々に体に馴染み、じんわりとした温もりを感じる。
「俺の魔力が分かる?」
「何となく」
「じゃあ、唯奈さんもこの魔力を作ってみようか。とりあえず、イメージでやってみて」
唯奈は言われたとおりにやってみる。雲をつかむような話かと思ったが、意外とできた。居所的だった魔力の温もりが全身に広がっていく。
「よし、じゃあ。俺の言う通りに魔力を練ってみて――」
それから雷斗が指示を出してくれたので、その指示に従い、魔力を練る。粘土をこねくり回すイメージで魔力も練っていくと、体がより熱を帯びた。
「いいね。仕上げに、自分が召喚したい妖魔とやらをイメージして、魔法を発動してみよう」
唯奈は言われた通り、召喚したい妖魔をイメージして、召魔術を発動した。
すると、ぽんと弾けるような音ともに、目が三つある雀が現れた。雀は唯奈の周りを旋回すると、その肩に止まって、「ちゅん」と鳴く。
ギャラリーから「おおおっ」とどよめきが起きた。
厳仁斎も顎が外れそうなほど驚き、唯奈も信じられないといった表情。
「……私、できたの?」
「ああ。できたよ」
「でも、どうして? 全然できなかったのに」
「それは、やり方を正しく理解していなかっただけ。多分だけど、あの人たちの指導方法に問題があったパターンかな」
「もしかして、わざと」
「どうなんだろう。それはわからないけど、多分、あの人たちも召魔術の原理的なところは理解していない、少なくとも、俺と戦った二人のやり方を見るに、十分理解しているとは言い難かったから、多分、正しい教え方がわかっていないんだと思うよ」
「ふーん。まぁ、いいや」
唯奈は厳仁斎の前へ移動すると、肩に止まった雀を見せつける。
「ほら、使えたでしょ。だから、これで、結婚は無しね」
唯奈が胸を張ると、厳仁斎は「ぐぬぬ」と奥歯を噛むも、諦めたようにため息を吐いた。
「……わかった。結婚の件は、考え直そう」
その言葉で、唯奈は満面の笑みを浮かべた。
――その日の午後。
雷斗が湖畔のベンチに座っていると、嬉々とした表情の唯奈がやってきた。
「ここにいたんだ」
「ん。まぁ、ちょっとね」
唯奈の結婚の話が流れたことで、ちょっとしたパーティーになっていた。雷斗もそのパーティーを楽しんでいたが、一人になりたくて、抜け出した。
唯奈は雷斗の隣に座って、湖を眺める。
「まだちゃんと言えてなかったけど、ありがとう。助けてくれて」
「俺は使い魔としての仕事を果たしただけさ」
「そっか。そういえば、使い魔としての仕事も終わっちゃうね」
「まぁ、そうだな」
「寂しくない?」
「え、べつに」と言ったところ、唯奈に睨まれたので、雷斗は言い直す。
「寂しいかも」
「そうでしょ。だから、これからは友達として、一緒にいようよ」
「いいの?」
「うん。照栖君には、召魔術についてもっと教えてもらわなきゃだし」
「わかった。なら、友達になろう」
唯奈が右手を差し出してきたので、雷斗はその手を握る。
「これからもよろしくね、照栖君」
「ああ。こちらこそ、よろしく」
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