第11話 男子高校生、対面する

 ――翌日。


 雷斗は早朝から朝霧が立ち上る湖畔で唯奈と対面する。彼女から呼び出されていた。


「それで、話って何?」


「うん。今日さ、例の件について、クソジジイに話そうと思っているから、よろしくね」


「わかった」


 わざわざそれを言うためだけに、自分を呼び出したのだろうか。


 雷斗が不思議に思っていると、唯奈がじっと見据えてくるので、雷斗はたじろぐ。


「何?」


「どう? 大丈夫そう?」


「ん。まぁ、それはそのときになってみないことには」


「そっか。照栖君には、期待しているんだからね」


「わかったよ」


 雷斗は苦笑して答える。唯奈の期待には、応えることができると思う。が、雷斗としては、もう少し召魔術について知りたいところではあった。


 そして朝食後。


 雷斗は女美村の村長であり、現当主でもある厳仁斎と対面した。厳仁斎は、悪人面の小さい老人だった。


 体こそ小さいが、雷斗はその内側から、大きな野心と魔力を感じた。


 厳仁斎は上座に座り、唯奈と雷斗、真紀、俊介が対面に座る。他の関係者と思しき人々はわきの方に座って、様子を見ていた。


「それで、わざわざ友人まで連れて、わしに何の用だ?」


「はい。結婚の件ですけど、私、やっぱり嫌です!」


「ふん。そのことか。駄目に決まっているだろう。召魔術が使えないお前には、我が家系の血を残す以外の価値はない」


 そう言って、厳仁斎は唯奈を一蹴する。SNSなら間違いなく炎上しそうな発言に、雷斗は苦い顔をするしかなかった。


「そのことなんですけど、実は私、召魔術が使えるようになったんです!」


「何? 本当か?」


「はい。英霊召喚ができるようになりました。そして、召喚したのが、こちらの照栖君です」


 急に振られたので、雷斗は困惑しながら、一礼する。


「ご紹介にあずかりました。照栖雷斗です」


 厳仁斎は疑り深い表情で、雷斗を眺めた。


「……お前は、本当に英霊なのか?」


「ええ、まぁ。一応」


 異世界を救った功績は、英霊と呼ぶには十分な実績だとは思う。


「ふん。わしには、ただの人間にしか見えないのだが?」


「そ、そんなことないです!」


 厳仁斎の表情から察するに、唯奈の嘘を見抜いてるようだった。


(論破されるんだろうな)


 次に備えていると、厳仁斎はにやりと笑った。


「その男は、本当に英霊なんだな?」


「はい」


「なら、戦ってその実力を示してもらおうか」


 唯奈からの目配せがあって、雷斗は頷く。雷斗としても、彼らとの戦いを通し、彼らの召魔術を知ることができるかもしれないから、望むところだった。


「わかりました。やります」


 雷斗の返事が意外だったのか、厳仁斎の瞳にわずかな動揺が走る。


「面白いじゃねぇか」と言ったのは、スキンヘッドの筋肉がムキムキの男だった。道着のようなものを着ているが、両肩から破けており、タンクトップのようになっている。何と言うか、男くさい男だである。


「ほぅ。お前がやってくれるか」


「ええ。許嫁にわからせるのも俺の仕事でしょう」


「そうに違いないな」


 雷斗は唯奈に視線を向ける。不服そうな顔で男を見返していた。確かに、あんな男との結婚は嫌だろう。


(……まぁ、俺が勝てば問題ないか)


 雷斗は気合を入れて、男に向きなおった。

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