第09話 男子高校生、観察する

 湖沿いに道を歩き、雷斗たちは唯奈の実家へと案内される。


 道を歩いていると、道行く人に怪訝な表情を向けられ、居心地の悪さを覚える。


 しかし唯奈には気にした様子も無く、進んでいく。


 雷斗は人々の顔を眺め、ある疑問を抱いた。


(なんか、唯奈さんと雰囲気が似ているような……)


 気のせいかもしれない。後で唯奈に話を聞いてみようと思った。


 そして、唯奈の実家に到着する。


 唯奈の実家は、武家屋敷めいた大きな屋敷だった。


 唯奈が「ただいまー!」と声を掛けると、母と思しき人がやってきて、雷斗たちを認め、目つきを鋭くする。


「唯奈。この方々は?」


「友達」


「……どうして連れてきたの?」


「いいじゃん。べつに」


「あんたねぇ」


 唯奈の母親は何か言おうとしたが、雷斗たちの視線が気になったのか、不満そうに言葉を飲み込む。


「後で話がある」


「私はない」


 両者の間で火花が散るほどの睨みあいが発生し、雷斗たちは戸惑う。


 先に折れたのは、唯奈の母親だった。


「……とりあえず、お客さんは客間に案内しなさい」


「うん!」


 雷斗たちは申し訳なさそうにしながらも、家に上がらせてもらう。


 雷斗は、唯奈の母親の隣を通り過ぎるとき、唯奈の母親の顔に諦念があることに気づいた。


 それは、この世の理不尽をすべて受け入れた人間がする顔に見えた。


 客間に荷物を置いてから、唯奈が村を案内すると言うので、ついていく。


 村人からは歓迎されていない雰囲気を感じ取り、素直に観光を楽しむことができない。


 それは、真紀たちも感じていたことらしく、四人だけの湖畔で、真紀はため息交じりに言った。


「どうやら、私たちはあまり歓迎されていないみたいね」


「ごめんね。ここの人たちはかなり閉鎖的だからさ」


「それにしたってねぇ」


 村人の話になったので、雷斗は気になったことを質問する。


「あの、この村人の人たちって、何となく唯奈さんに似ていると思ったんだけど」


「あ、気づいたんだ。実は、この村は全員、私の親戚なの」


「え、すごっ!」と真紀。


「マジ?」と俊介も唖然とする。


 雷斗も表情には出さないものの、素直に驚いた。


「何人くらいいるの?」と真紀。


「全員で200人くらいかな」


「200人。多いね」


「まぁね。うちの家は、血統を大事にするから、親戚同士で結婚するのが当たり前で、結果、無駄に親戚の数だけは多いんだよね」


「へぇ。あ、もしかして、唯奈の結婚相手も?」


「うん。親戚の人。しかも、40代のおっさん」


「うわぁ、それは最悪じゃん。いつ、お爺さんに結婚の意思がないことを告げるの?」


「それは、まだ悩んでいる。けど、明日には言いたいと思っている」


「そっか。そのときは私たちも力になるからね!」


 雷斗は話を聞きながら、結婚の話は、真紀たちも知っていることは何となく知った。


 が、肝心なのは、彼女たちが不思議な力について理解しているかどうかだ。


(多分、してないだろうな)


 真紀たちからは、魔力のようなものを感じない。こんな素人をこの場所に連れてきた唯奈の真意がわからなかった。


(あと、この人たちが使える召魔術とやらもよくわからんな)


 少なくとも、白昼の村でそれを知る機会は無さそうである。


 だから雷斗は、そのチャンスを見落とさないように注意しながら、辺りを観察した。


 そして、召魔術について知るチャンスを得たのは、その日の夜のことだった。

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