第07話 男子高校生、使い魔になる

 唯奈からの突然のお願いに、雷斗は困惑する。


「使い魔って……どういうこと?」


「安心して! ちゃんと説明するから。まず、さっきも言ったように、私は『召魔師』の家系に生まれたんだけど、肝心の召魔術が使えないから、そのせいで、好きでもない人と結婚されそうになっているの。召魔術が使えない私には、それしか価値が無いんだって」


「へぇ。今の時代にそんな考えをしている人がいるんだ」


「うん。それで、現当主であるあのクソジジイを納得させるためには、私が召魔術を使えることを示す必要があって、それで照栖君には協力してほしいの」


「……えっと、何となく事情は分かった。でも、俺が唯奈さんの使い魔になったとして、召魔術によって召喚されたことは、どうやって証明するの?」


「照栖君は、英霊召喚によって召喚したことにするわ。そうすれば、多分、大丈夫。英霊召喚って言うのは、英霊を召喚する召喚術のことで、この召喚術を使うと、照栖君のような人間が召喚される。だからあとは、照栖君がその不思議な力を使って、自分が英霊であることを示してくれれば、私が使い魔を召喚できることが証明できると思うの!」


「……な、なるほど」


 雷斗は戸惑う。唯奈の言っている方法では、召魔術が使えることの証明にはならないと思ったからだ。


 例えば、目の前で新たに召喚してみせろと言われたとき、どのように対応するつもりなのか。


 しかし唯奈は、どや顔で胸を張り、自分の作戦に絶対の自信を持っているようだったので、そんな指摘をするのは無粋な気がした。


(まぁ、いざとなれば、俺がフォローすれば、何とかなるか)


 唯奈が使えなくとも、自分が何かしらの召喚魔法を使い、それを唯奈が発動したように見せかければ、いくらでも欺くことはできる。


(となると、ここは唯奈さんの誘いに乗った方が面白いことになるかも)


 唯奈の語る召魔術に興味があるので、それを自分の目で確認してみたいから、唯奈の提案に乗った方が自分的にはプラスになると思った。


 ゆえに雷斗は頷く。


「わかった。唯奈さんの使い魔になる」


「本当!? ありがとう! じゃあ、SNSの連絡先を交換しようか」


 雷斗は、意図せず、唯奈の連絡先が手に入ったことを喜び、その日は、鼻歌を歌いそうなほどの軽快な足取りで、帰路についた。


☆☆☆


 雷斗は翌日も気分が良かった。


 登校し、自分の席に座って、唯奈に目を向ける。


 唯奈へ必死に挨拶する男子生徒を見て、優越感に浸る。


 彼らの中で、唯奈の連絡先を知っている者はどれだけいるのだろうか。


 そんなことを考えていると、SNSに通知が来た。


 唯奈からだった。


 昼休みに空き教室に来て欲しいとのことだったので、了承する。


 そして昼休み。


 唯奈と空き教室で二人きりになる。


「ごめんね、こんな所に呼び出しちゃって」


「いや、べつにいいよ。むしろ、どうしてここに?」


「例の件について話しておきたくて」


「ああ。使い魔になるって話」


「うん。それで、早速だけど、今週の金曜日、私の実家に行こうと思うんだけど、どうかな? 一応、祝日なんだけど」


「わかった。まぁ、いいんだけど、早いな」


「実は私の誕生日がタイムリミットになっていて、その日と言うのが、金曜日の二日後なんだよね。だから、早くせざるを得ないの」


「なるほど、そういう事情なら仕方ないね」


「うん。ごめんね」


「いいよ。唯奈さんの使い魔になったわけだし」


「ありがとう、照栖君。この埋め合わせは、いつか絶対するから」


「ああ、うん」


 こうして雷斗は、唯奈の実家へ赴くことになった。

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